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松尾彩香|スペイン

犬を飼う前に講習受講!スペインで動物福祉法 上院が承認

©️iStock -Vasyl Dolmatov

昨年1月、スペインでは動物を物ではなく「感情を持つ生き物」として見なし、ペットは家族の一員として扱われることが正式に法律で決定しました。この法律によってスペインではペットを飼っている夫婦が離婚するときに、監護権や面会の頻度などを決めることに裁判所が介入するようになったりと、ペットの扱いに大きな変化をもたらしたのです。そんなスペインで今月、新たな動物福祉法が上院で承認され動物の命がより尊重されることになりました。ヨーロッパでは同様の動物保護を目的とした法制定が次々と行われているようです。

   

ペットを飼うことの責任をより重く

今回承認された動物福祉法には、ペットを飼うことに関する項目が多く含まれています。ペットは家族の一員であると昨年の法律で認められたことから、ペットを迎え入れ育てることに対してこれまで以上に責任が問われることになりました。以前と比べ動物を飼うことにたくさんの義務やルールが設定され少々面倒にはなりましたが、これらは人間による虐待や粗末な飼育を避けるために大きな役割を果たすことになるでしょう。ここでは新しい法律のペットに関する項目の一部を紹介したいと思います。 

・犬を飼う前に講習受講を義務化

新しく犬を迎え入れる際、オーナーとなる人は事前に犬を飼うための講習を受講することが義務付けられます。講習の内容、期間、管轄などの詳細はまだ決定していませんが、無料のオンラインコースになることが予測されています。

・ペットショップで犬猫の販売を禁止

日本のように店頭で犬猫を販売しているペットショップをスペインでは既にほとんど見かけませんが、今回の動物福祉法で犬猫フェレットの店頭販売が全面的に禁止されることになりました。購入を希望する場合は登録されているブリーダーに直接問い合わせることになります。また、魚類や鳥類などの店頭販売はこれに含まれません。

・猫は避妊手術義務

猫に関しては生後6ヶ月までに去勢・避妊手術を受けさせることが義務付けられました。犬の去勢・避妊手術は義務ではありませんが、もし飼い犬が妊娠してしまった場合、飼い主はブリーダーとして登録するか中絶をさせないと罰金が課せられることになります。

・ペット登録の義務

たとえハムスター1匹であってもペットを飼っていることを申請し登録をしなければいけません。犬猫フェレットはマイクロチップの装着が必須となり、犬の場合は加えて民事責任保険への加入が義務となります。またペットが死亡した場合、登録を削除するために火葬や埋葬を誰がどのように行ったかなどの申請を行う必要があるようです。

・動物の放置は禁止

犬は基本的に常に人間の監視下に置いておかなければならず、24時間以上放置すると罰金が課せられます(他の動物は3日)。外にいる犬をリードに繋がなかったり、ベランダで飼育するといった行為も禁止で、子供同様に車内に放置することもできません。また、飼い犬が迷子になった際は48時間以内に届出を行う必要があります。

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©️iStock - hobo_018 

 

動物虐待を厳罰化

ペットの飼育以外にもこの法律によって刑法337条の改正が行われ、動物虐待に科せられる最高刑が今までの倍になるほど重いものとなりました。この改正によって、愛護動物に病院にいくほどの怪我を負わせた場合は最大18ヶ月、死亡させた場合は最大36ヶ月の禁固刑が科せられるようになったのです。

この法律が上院で承認される数日前、カディス県の自治体で12歳の女の子が連れて歩いていたチワワを男が殺してしまうと言う事件が起こりました。男は犬のリードが足に引っかかったことに腹をたて、犬を蹴り上げたあと頭を踏みつけ殺したようです。男は目撃者の通報によって駆けつけた警察に逮捕され、取り調べでこの男には過去に動物虐待を含む17件の犯罪歴があることが判明しました。しかし裁判官が下した判決はわずか禁固1年と650ユーロの罰金。7月には刑事裁判が行われるそうですが、近隣住民や動物愛護団体はこの男に対して新しい動物福祉法の適用を求めて裁判所に抗議を行なっています。

↑抗議活動の様子

  

ネズミを追い払ったら禁固刑?

この法律ではこれまで「ペットの虐待」としていた箇所が「脊椎動物の虐待」に置き換えられ、保護される動物の幅が広がりました。しかしこの法律に忠実に従うと、たとえ家にネズミが出ても我々は何もできないことになってしまうのです。仮にホウキを使って追い払ったとすると、それは「脊柱動物を武器を使って虐待した」ということになり、禁固刑18ヶ月と5万ユーロの罰金が課せられることになってしまいます。この情報はSNSで多く拡散されており国民の混乱を招きました。これを受けて、この法案をリードしたイヨネ・ベララ社会権相は「ネズミの駆除は罰則の対象にならない」と説明しましたが、これから法律の詳細を決めていく中でこれらの例外は明確に定めていく必要がありそうです。

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©️iStock - Valeriy Volkonskiy

 

野良猫の保護

この法律では野良猫も立派な保護の対象となります。地域に住み着いている猫の責任は主に市役所が担うことになり、野良猫の住処や餌の世話は市役所職員の仕事となります。また繁殖防止の方法として殺処分は行わず、避妊・去勢手術で対処していくことが決定しました。しかし野良猫の個体数をコントロールするためには野良猫全体の71%以上が避妊手術を行なっていないと効力がないとされていることから、一部の関係者から過剰繁殖を心配する声も上がっています。

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筆者の街にある市役所が設置した猫の家。中には餌が入っている(筆者撮影)

  

狩猟犬や闘牛は含まれない

この法案が出たときに議論を呼んでいたのは狩猟犬は対象になるかという点。スペインの狩猟犬の中には過酷な飼育状態で飼われている犬もいるとして、動物愛護団体は狩猟犬をこの法律の対象に含めることを求めてたびたびデモ行進などの抗議活動を行なってきました。一方、狩猟連盟側も「狩猟犬は特別な活動を行なっているため、ペットと同じ扱いをすることはできない」と反論を続けており、この「狩猟犬を対象にするか否か」という点はこの法律を定める上での注目ポイントでもありました。結果、狩猟犬はこの法律の対象に含まれないことで同意されたようですが、狩りの効率化のために犬を長時間空腹状態にしたり、高齢になったら捨てる猟師がいたりと、狩猟犬の扱いに問題点があるのは紛れもない事実。狩猟犬の問題に関してはこれからも議論が続くことになりそうです。

またスペインのほとんどの州で合法となっている闘牛も、今回の法律の対象にはならないことが決定しました。

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©️iStock - juliazara

 

命の線引き

日本と同じようにスペインでも少子化が進んでおり、それに合わせてペットを飼う人は年々増えているようです。犬は牧場犬や番犬、猫はネズミ捕りと、昔の人は動物を労働力として飼っていたのに対し、近年では動物を家族の一員として飼う人が大半になってきました。そのように人間と動物の関係に変化があったからこそ今回のような法案が承認されたわけですが、どの種の動物をどの程度まで保護するのかという線引きには慎重にならなくてはいけません。例えばこの動物福祉法によって全ての脊柱動物が保護の対象になったわけですが、農村部には猪やネズミ、ウサギなどの脊柱動物の害獣被害に悩んでいる人がたくさんいるのです。たとえ農作物を食い荒らされていても動物を保護しないといけないから何もできないというのでは、人間と動物どちらが大切なのだと疑問を持たれるのも無理はありません。ヨーロッパを中心にじわじわ広がりつつあるこの動き。命が大切なことに間違いはありませんが、日本出身の私はこれを見てどうも「生類憐みの令」を連想してしまうのでした。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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