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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

「ウサギ緊急事態宣言」発令のスペイン 食害に頭を抱える農家たち

©️YouTube -Tierra de conejos (documental)

スペイン各地でたくさんの農家がウサギによる食害に悩まされています。特に私が住んでいるカスティージャ・ラ・マンチャ州はこの被害が特に深刻で、292もの自治体でウサギ緊急事態宣言(狩猟緊急事態宣言)が発令されるほど。「ウサギ緊急事態宣言」と聞くと可愛く感じますが、同州では8万ヘクタールにも渡って被害が確認されており、地元の数千もの農家たちが州政府に対して早急にウサギの調査を進め何かしらの対策をとる様に求めているほか、地元メディアたちは全国各地の農家の苦悩の声を報じています。

 

ウサギの国スペイン

「スペイン(España)」という国名は、地中海沿いに居住していた民族のフェニキア人によって名付けられたと言われています。意味は「ウサギの土地( i-spn-ya)」。もともとウサギがたくさん生息する土地で彼らと共存して生きてきたスペイン人たちですが、近年では様々な要因が重なりそのバランスが崩れてきているといいます。カスティージャ・ラ・マンチャ州では1ヘクタールあたりに600匹ものウサギが生息しており、去年このウサギによる食害の被害額は5000万ユーロにのぼりました。農園を荒らすウサギはこの'ウサギの土地'にもともと生息していた在来種のウサギではなく、ハイブリットウサギと呼ばれる野ウサギと食用ウサギが混ざった雑種と言われており、これらのウサギは在来種のウサギと比較して食欲旺盛で繁殖力も強いことが近年の被害増加の原因のひとつと考えられています。ウサギたちが好んで食べるのはオリーブやブドウの木、小麦などの穀物、ピスタチオ、アーモンドの木など、どれもスペインを代表する作物ばかり。農家たちは行政がウサギのコントロールを怠ってきた結果だとして、このウサギの繁殖原因の調査や狩猟の許可、損害による補助金制度の導入などを求めています。

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©️iStock - Zoe Turner

 

ウサギ対策

これまでウサギの食害対策として色々な方法が試されています。しかしウサギが嫌う餌を撒いて追い払う方法はあまり効果がなく、殺兎剤は犬や鷹など他の動物が誤食してしまうケースが相次いで問題になりました。ウサギ侵入防止のためのネットを張るとトラクターの搬入に影響が出てしまうし、電気柵ではうまくすり抜けられてしまいます。巣に入ってウサギを狩るフェレットを農地に放してみても、ハイブリットウサギの巣は迷路の様な複雑な構造になっているためフェレットが迷子になってしまって上手くいきません。猟師による狩りも行われていますが、ウサギを狩ることができるのは1年の間に8月15日から9月の第3日曜日までの約1ヶ月間(カスティージャ・ラ ・マンチャ州の場合)に限られている上に狩ることのできる頭数に制限があり、ウサギの繁殖スピードに駆除が追いついていくことができていないのです。そこでウサギの食害被害を多く受けているカスティージャ・ラ・マンチャ州は狩猟の制限の見直しを行い、狩猟期間外のウサギの狩猟を許可することを決定したほか、55の自治体に対してウサギの天敵であるキツネの狩猟を3月から7月の間禁止することを発表しました。しかしキツネ狩りの禁止に関しては、農地を荒らしていない野ウサギや保護対象であるアカハラウズラなどの鳥類を危険に晒すことになると狩猟協会は反対の声を上げています。また高速道路や幹線道路では狩りが禁止させているため、道路から近い農地にはこれらの措置はほとんど効果がなく、行政は狩猟以外の方法で作物を守る対策を早急に打ち出すことを求められています。

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©️iStock - JMrocek

 

ウサギだらけの街

ウサギの食害被害をもろに受けているカスティージャ・ラ・マンチャ州。私が住んでいる街もウサギ緊急事態宣言が発令された292の自治体の一つです。3月に入って暖かくなったからかウサギが活発に動き始めた様で、高速道路を走行していると約10m間隔で車に撥ねられたウサギの死体を目にする様になりました。地元の人によると毎年この時期には車とウサギとの接触はよく起こる様で、「春が近い証拠」なんだそうです。 

さて、天気も良かったので今日はウサギウォッチングをしに近所の公園まで散歩に出かけてみました。今まで気に留めたことはありませんでしたが、よく見てみるとそこら中が穴だらけ。これらは全てウサギたちの巣なのです。

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筆者撮影

忍足で道を進むと巣の周りにはたくさんのウサギたちが。カメラを向ける動作に気付いて逃げてしまうので上手く写真に収めることはできませんでしたが、15分にも満たない散歩の間に10匹以上のウサギを見ることができました。

IMG_3841.jpg土の色に同化してなかなか見つけられません。(筆者撮影)

農作物がほとんどない街中の公園でこれだけのウサギを見ることができるのですから、農業地域は膨大な量のウサギが生息しているに違いありません。私たちの食卓を支えてくれている農家たちは、数年前からウサギの食害だけでなく肥料価格の高騰や干ばつにも悩まされており、廃業寸前で踏ん張っているのが現状なのです。先月22日にトレド市で行われたウサギによる食害を訴えるデモ行進には2500人以上の農業従事者が参加し「損失は年々ひどくなっている」「作物の30%が被害にあった」とメディアが行ったインタビューで自身の農園が被っている被害の大きさを嘆いています。州の畜産農業団体代表であるアンドレス・ガルシア氏は「狩猟だけでは十分ではない。狩猟以外で他の対策を講じなければ消滅するのは我々農業従事者だ。」と事態の深刻さを語り、行政に早急な対策を求めました。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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