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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

今回はスペインで 増え続ける名画を狙った過激な抗議活動

©️YouTube - España | Dos activistas se pegan a La maja desnuda y a La maja vestida de Goy

「あぁ、やっぱりここにも現れたか」このニュースを目にした時、思わず大きなため息が出てしまいました。

スペインのマドリードにあるプラド美術館にて、また過激派環境活動家による行き過ぎた抗議活動が行われたのです。最近やたら目にする世界の名画を標的とした「環境テロリスト」とも呼ばれるこの行為。スペインの象徴となる作品に対してリスペクトに欠けた行動だとして国内からもこのようなパフォーマンスに対しての批判が強まっています。

  

ゴヤの名作2点に手を接着 環境活動家2名を逮捕

今月5日、首都マドリードにあるプラド美術館で、過激派環境活動家2人がスペイン出身の画家ゴヤの作品2点の間の壁に「+1,5℃」と書き、さらに額縁に接着剤で手を接着するという騒動が起こりました。作品が展示されていた38番の部屋は一時封鎖されましたが、数時間後に入場を再開しています。

現在エジプトで行われているCOP27に訴えかけるためか、最近では今回のような世界の名画をターゲットとした行き過ぎた抗議活動がヨーロッパとする世界各地でたびたび起こっています。今回は絵画に直接液体をかけたり触れたりというパフォーマンスではありませんでしたが、作品を保護していた額縁には付けられた接着剤による損傷が確認されました。額縁は作品を引き立たせる役割を持つ大切な装飾であり、今回損傷を受けた額縁も19世紀初頭に製作された歴史的に価値のあるものとして認識されているものです。

この環境活動家2人は即座に拘束されましたが、翌日釈放されました。

記者2人も同罪で逮捕

この抗議活動には騒動を起こした当事者2名の他にも逮捕者が出ています。

EL SALTOの新聞記者ジョアンナ・ヒメネス氏ともう1名はこの抗議活動に参加していたとして環境活動家らと同じ罪で逮捕されました。監視カメラと目撃者の情報ではこの記者らは活動家と行動を共にしていたとされており、今回の活動に関与したと見られています。

ヒメネス氏が自身で撮影した動画には、美術館の関係者から退室を命じられているにもかかわらず「私は記者なので」と指示に従わず活動家たちを撮影し続けようとする様子が映し出されていました。EL SALTO誌はこの逮捕に対して「報道の自由が犯されている」と反論の記事を公開しましたが、スペインジャーナリスト協会連盟(FAPE)とマドリッド記者協会(APM)はこの記者たちはジャーナリストとしてではなく「市民」としてこの行動の責任をとるべきだろうとコメントを残しています。

 

セキュリティの見直しを

プラド美術館は入館後すぐに荷物をX線手荷物検査装置に通し、その後大きなカバンは預かり所に預けるようになっています。日本の美術館と比較すれば一見しっかりしたセキュリティに見えますが、今回使用された手の平に収まってしまうサイズの接着剤や小ぶりの筆はどうやら見落としてしまっていたようです。

欧州議会議員のホルヘ・ブクサデ議員はこれらの環境活動家を「文化遺産を破壊する西洋のタリバン」と呼び、「数週間前、私たちは政府にすべての国立博物館を保護するための措置をとるよう要求しましたが、政府はそれを行わなかったためこのような結果になりました。」と美術館の警備の甘さに苦言を呈しました。

先月14日に2人の環境活動家がロンドンナショナルギャラリーに展示されているゴッホのひまわりにトマトスープをかけるという騒動が起き日本でも話題になりましたが、スペインのメディアEL MUNDOはこの騒動を受けてスペインの美術館では今後どのような対策を取っていくのかを取材した記事を掲載しました。しかしこの取材の段階では多くの美術館が「セキュリティは常にしっかりしている」「明日の経営会議で話すかもしれない」と遠回しにセキュリティを強化する予定はないことを表明しており、もしこの時にしっかりとした対策を取っていたらこの出来事は避けられていたのかもしれません。

スクリーンショット 2022-11-08 午後5.44.00.png

©️YouTube-Bienvenido. Museo Nacional del Prado

 

過激な抗議活動

SNSの普及に伴ってかどうかは分かりませんが、最近たびたびこのような行き過ぎた抗議活動を目にするようになりました。ラッシュアワーに道路に座り込む環境保護グループ、スーパーマーケットで牛乳を床に撒き散らすヴィーガン、家畜を輸送するトラックをパンクさせる動物愛護団体・・・。

彼らは彼らの正義感を持って行っている抗議なのでしょうが、私はこういった方法にはどうしても賛同することはできません。人々は危機感を覚えないといけない。自然や命を大切にしなければいけない。彼らが訴えることに関しては私も同じ意見を持っていますし、そのような考えを持つ人はたくさんいると思います。しかし、こういったテロリストともいえる行為を行うことによって見ている側は拒否反応を起こし、彼らの言葉に耳を塞いでしまうということは安易に想像がつくのではないでしょうか。現に今回接着剤を額縁にくっつけてスピーチしていた彼らの言葉は全く報道されておらず、この行動に成果があったのかどうかにはどうも首を傾げてしまいます。同じように自然を愛し地球を守っていきたいという考えを持っている身としては、環境問題に関心がある人たちのイメージを無駄に下げてしまうようなこういったテロ行為はやめてほしいと思うのです。

スクリーンショット 2022-11-08 午後6.26.13.png

©️YouTube - UK climate change protesters throw soup at van Gogh's 'Sunflowers'
 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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