スペインあれこれつまみ食い
『過去500年で最悪の干ばつ』スペイン人の暮らしにも影響
過去500年で最悪の干ばつと言われている時期を過ごしているヨーロッパ。イタリアでは7月に干上がった川底から紀元前2300~700年の青銅器時代の建築物の支柱が出現したり、8月にはセルビアの川で第二次世界大戦中に沈没したドイツ艦隊が水位の低下によって剥き出しになったりと、この夏はヨーロッパ各国で干ばつ関連のニュースが相次ぎました。夏は終わりすっかり気温は秋らしくなりましたが、深刻な干ばつの問題は今も続いている様です。
スペインの干ばつ事情
ヨーロッパの干ばつ問題、スペインももちろん例外ではありません。
乾燥した地中海の気候の影響をもろに受けているスペインで年中安定した水を供給するためには、貯水ダムの存在は不可欠です。スペインのダムの保有数は世界でも上位につけるほどですが、今年は貯水量が満水時と比較して40%を切ってしまっているダムが続出しているというのです。この異常事態にスペインの南部に位置する都市セビージャでは、今月から市民が使う水の使用に制限をかけることが発表されました。生活用水を花だんの水やりや打ち水に使用することを禁ずるほかに、プールに水を貯めたり車の洗車を行うこともこの制限の対象になるようで、一般市民の生活に大きな影響を与えることは避けられないでしょう。
また、この水不足はスペインの農畜産業界にも打撃を与えているようです。スペイン中央部からポルトガルの南東部を流れるグアディアナ川の水域では水不足の影響を強く受け、それによって農業用水が40%もカットされました。水を十分に与えられなかった作物は水々しく大きく育つことができず、品質の低下や生産量の減少など様々な問題を抱えていると言います。例えばロシアのウクライナ侵攻で価格高騰が騒がれている小麦。輸入ができない分国内生産で補いたい所ですが、この水不足の影響で過去3年の平均生産量と比較して今年は20%以上生産量が減少してしまいました。また家畜の飼料となるトウモロコシなども軒並み生産量が減少していることから、肉や牛乳の生産にも影響を与える結果となり、農業大国であるはずのスペインに強い逆風が吹いています。この影響を受けるのはもちろん農家だけではなく、これらの水不足による不作はインフレをさらに加速させる大きな要因の一つとなり、国民の経済活動にも悪影響を与えることになりそうです。
「今年はおかしい」
この夏、いろいろな場所に友人たちとトレッキングに出かけました。しかし「あそこには滝があるから」「川が綺麗だから」と連れて行ってもらった所に水の気配は全くなし。「毎年ここの川で遊んで草のある所でピクニックをするんだ」と言われましたが、滝があるはずの場所はただの岩壁で、川があるはずの場所に水は一滴も流れておらず、ピクニックをしたという場所は砂漠の様に乾いて砂埃が舞っていました。
さらに暑さも落ち着いた9月。毎年この時期にキノコ狩りに行くからと誘われてついて行った時も、乾き切った地面にキノコなど生えておらず「まぁ、今年は全然雨降らなかったからね」と手ぶらで帰ってくることもありました。
去年と全く気候が違うのはそこで生まれ育った地元の人の目にも明らかな様で「今年はおかしい、いつもはこんなじゃない。」とみんな私に口を揃えて言います。確かに7月と8月合わせても雨が降った日は数えるほどしかなく、降った雨も地面を濡らしきることなく止んでしまうほどでした。昨日と今日とまとまって雨が降りましたが、この夏の降水量の少なさをカバーできるわけもなく、しばらく節水の日々は続きそうです。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon