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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

ジューンブライドは孫娘

結婚式は庭に椅子を出して行われ、二人の愛犬もおめかしをして参列した。夏らしい花柄やカラフルな色のドレスが青空と緑に映えて幸せな気分になった。小さい頃に父親を亡くしている孫娘は、母親(夫の娘)に手を引かれてバージンロードを歩いた。その姿を見て、血のつながらないわたしもぐっときてしまった。「男の子はゲームばっかりでつまらん」という夫の謎の信念のもと、男の子の孫とはそれほど長く過ごしていないけれど、ただ一人の孫娘とは旅行に出かけたり、家に預かったりして、ほんの少しママ気分も味わわせてもらったのだ。パリではクロワッサンのついたペンを買って大はしゃぎしていたのに、大きくなったねぇ。

newsweekjp_20240626125852.jpeg結婚式後のフラワーシャワー。式では新婦の名前が「ローラ」と呼び間違えられて、その場は一瞬凍りついた。けれど披露宴になる頃には「ローラって誰だよ!」と新郎がからかわれ、あちこちで大きな笑いが起こっていた。筆者撮影

披露宴のメインテーブルには新郎新婦、その脇には男女それぞれの付き添い役のトップであるベストマンとメイド・オブ・オナー、そして親たちが座る。食事中は新郎新婦も客たちも自由に席を離れておしゃべりを楽しむスタイルで、「久しぶり!」「元気?」「おめでとう!」という声があちこちから聞こえた。

一段落したところでスピーチが始まった。父親の代わりに話をした新婦の母親も兄も、ふだんの辛口はどこへやら、英国スピーチの基本であるユーモアを交えつつ花嫁をひたすら褒めたので、わたしの鼻はぐんぐん高くなった。

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スピーチをする花嫁。21世紀の花嫁は頼もしかったけれど、「心から安心できる場所をくれてありがとう」と夫に感謝して涙ぐむ姿はやっぱりかわいらしいのだった。筆者撮影

会場の片付けを待つ間、たくさんのチョコレートブラウニーが置かれていることに気がついた。ウェディングケーキの代わりだよと教わって初めて、披露宴ではケーキカットがなかったことに気がついた。今どきはさまざまなアレルギーや嗜好に対応する必要があるので、思い切ってケーキをやめて、材料別に何種類かのブラウニーを用意したそうだ。そういえば食事も、メインはビーフにするかベジタリアンにするかと事前に聞かれていたのだった(結婚式をするのも大変だなあ)。

準備ができたのでどうぞと呼ばれて会場に戻ると、テーブルも椅子もきれいに片付けられていた。ファーストダンスが始まるのだ。周りに囃し立てられてロマンティックに踊る二人。若さがまぶしい。すると曲のサビのあたりで、新郎が新婦を軽々と抱き上げ(おとぎ話の王子様みたいに!)、くるくるとターンを始めた。チアリーディングをしていた孫娘は新郎の腕の中で片手と片足をぴんと高く上げ、笑顔で喝采に応えた。

花嫁はすたっとフロアに降り立つと、周りに手招きをした。するとそれを合図に大勢がどっとフロアになだれ込んだ。結婚式名物、ダンス大会の始まりだ。あとは夜更けまでひたすら音楽とダンスが続く。フロアの入り口にひっそり用意されたビーチサンダルは、ハイヒールを脱いで踊ってねという二人からのメッセージだ。

結婚式のダンスに上手い下手は関係がない。たいてい一人か二人は驚くほどぎくしゃくした動きをする人がいるものだし、今どきロボットダンスを披露するお調子者がいたりもする。とにかく仲間に加わって一緒に気持ちよく体を動かすことが肝心なのだ、きっと。この日はほとんどクラブっぽい音楽だったけれど、親戚のおばさんもおじいちゃん世代もノリノリで踊っていた。わたしもお祝いの気持ちを込めて、聴いたこともない若者の音楽の渦にダイブしましたとも。

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夜更けのダンスフロア。老若男女がとにかく踊る。トイレには日焼け止めや虫刺されの薬のほかに、絆創膏、ヘアピン、頭痛薬も用意されていて、会場の配慮に感心した。ワイルドになっちゃう人もいるのかもね。筆者撮影

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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