
Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
観光と保護の両立問題:オーストラリアの有名観光地で「立ち入り禁止/制限」が増えている理由

世界遺産であり、オーストラリアを代表する観光地「ウルル(エアーズロック)」の登山(登岩)が2019年10月26日をもって禁止となった。この件については、このコラムで取り上げたことがあるし、ウルルは昔から日本人にも人気のあるよく知られた観光地であるため、メディアでも大きな話題になっていたので、ご存じの方も多いかもしれない。
でも実は、ウルル以外にもオーストラリアを象徴する有名な観光地で、一部のエリアが立ち入り禁止になっていたり、立ち入りや行動が制限されたりしている。
世界的にも有名な観光地をいくつか挙げてみると・・・
- カカドゥ国立公園のジムジム滝、ツイン滝渓谷(ノーザンテリトリー)
- ケープヨーク(ケープヨーク半島)のパジンカ(クイーンズランド州)
- ホリゾンタル・フォールズ(西オーストラリア州)
- グランピアンズ国立公園 の一部(ビクトリア州)
などなど、昔は誰でも気軽にアクセスできていたのに、現在は立ち入ることすら困難になっているところもあると知って驚いた。ここに挙げた観光地は、日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、欧米からの観光客に人気が高く、豪国内ではよく知られた観光地ばかりだ。(※太字の場所名から各観光局の日本語ページへリンクを貼ってあるので、どんなところか興味のある方はご覧になってみてください)
「カカドゥ国立公園」は、世界遺産でもあり、オーストラリアを代表する大自然が素晴らしい観光地だが、約30年間に渡ってこの地で4WDサファリ・ツアーを催行しているグレイグ・テイラー氏によると、今は公園内の多くの人気観光スポットが「どのような理由であるかに関わらず、年間の大半にわたって閉鎖されている」という。
先月、テイラー氏が地元ラジオ番組で、ジムジム滝、ツイン滝、ガンロムなどの主要な人気観光名所にアクセスできないことで、観光客が減っている現状を目の当たりにしていると語り、大きな話題となった。
立ち入り禁止や制限された、その理由は・・・
テイラー氏によれば、カカドゥの主要観光スポットにアクセスできない理由は、環境上の問題、インフラ整備、運営上の理由など、様々だという。
カカドゥ国立公園は、太古の昔から引き継がれた類まれなる自然と先住民文化が残っていることから、ユネスコの世界遺産の中でも「自然と文化の両方の価値」を認められた物件だけが選定される、世界でも数少ない「複合遺産」となっている。
カカドゥと同じように、近年、立ち入り禁止になったり、立ち入りが制限されたりしている場所はどこも、素晴らしい大自然と共に先住民文化が色濃く残る場所がほとんどだ。そのため、国立又は州立公園や保護区などに指定されていても、管轄権限は、国立公園事務局のような公的機関だけでなく、昔からその地で暮らしてきた地元先住民グループらが関わっているところが多い。
こうした場所では、彼らの意見や意思決定が最も尊重されるため、例えば、ウルルのように彼らが『聖地』として崇めてきた場所に、大勢の観光客という形の部外者が立ち入り、踏み荒らされることをないよう、制限やルールを設けることがある。
神聖な場所であるなしに関わらず、先住民文化に関連した様々な理由で部外者に対する制限が課された場所は、年々増えており、テイラー氏のようにツアー会社をはじめとする観光業者にとっては、頭の痛い問題となっているようだ。
日本でも海外からの訪問客も含め、観光客の数が急増し、神社仏閣などの神聖な場所でもこれまでは聞きたことがなかったような悪質な素行による被害が増えて問題となっているが、オーストラリアの事例のように、ある程度の規制をしていくのがいいのか、規制等せずに観光との折り合いをうまくつける術を模索していくのか ── どちらにしても一筋縄ではいかない複雑な問題だろう。
オーストリアも日本も、観光促進と環境や文化保護の両立について、一度原点に立ち戻って考え直す時期にきているのかもしれない。〈了〉

- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
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