England Swings!
厳しい暮らしを反映するクリスマスCMが話題に
ところで、実は本家のジョン・ルイスのクリスマスCMも、今年はいつもと違うテイストになっている。これまでは子どもや老人や動物が登場して、ファンタジー風な映像がほとんどだったけれど、今年はいきなりスケートボードを練習する中年のおじさんから始まる。
It's the things we do that mean the most. #TheBeginner pic.twitter.com/pdtwAcaBDu
-- John Lewis & Partners (@JohnLewisRetail) November 10, 2022
おじさんは練習が楽しいわけではなさそうだ。やってもやっても上達しないし、奥さんにも友だちにも笑われる。それでもあきらめず、少しはましになってきた。そして迎えたクリスマスの日、食事の準備をする彼らの家のベルが鳴る。ドアを開けると女性がひとりと、スケボーを抱えた女の子、エリーが立っている。彼女は玄関に置かれたおじさんのボードにすぐ気がつく。「ああ、ぼくもちょっとやるんだよ、きみのスケボーみたいにかっこよくないけど」「ステッカー貼ってあるだけだよ」「じゃあぼくのも貼ればいいのかな」と話しながら家に入る。そして最後に「英国では10万8000人以上の子どもが里親制度を利用しています。ジョン・ルイスは里親と暮らす子どもたちの将来を長期的に支援しています」という文字が現れる。
ふたりはエリーを里子にしたようだと気がついて、わたしたちは里親と暮らす子どもがいることを思い出し、子どもを温かく迎えるために努力する人たちがいることを知る。いつものふわふわした夢の世界とはだいぶ角度の違うCMだ。これも世相を反映して、支援が必要な人に寄り添おうという思いの表れなのかな。こんなことをしている人がいますよ、あなたも何かしてみませんか? と、背中を押された気持ちになる。
ジョン・ルイスだけでなく、今年のクリスマスCMは全体に家族や絆に焦点を当てたものがいつになく多い。たとえば、マクドナルドやドイツ系のスーパーマーケット、リドルのCMからは、「一緒にいることが大切」というメッセージが伝わってくる。今年のクリスマス商戦は厳しいそうで、メール広告での売り込みが激しいような気がするけれど、それでもコンセプトとしてのCMはあくまでクリスマスらしく、やさしく、心のつながりを大切にしているようだ。
とは言いながら、クリスマスの夢を見せてくれる明るいCMや食べものをずらりと並べた派手なCMも、それはそれでやっぱり楽しい。こんな時だからこそ、楽しいCMで気晴らししたっていいじゃないの。
というわけで、最後はクリスマスプレゼント代わりに、わたしが独断で選んだ過去のクリスマスCM傑作集を次ページでお伝えします。
今年もこのブログを読んでくださって、ありがとうございました。来年も日本人のわたしがおもしろいと感じる英国の姿をお伝えしていけたらと思っています。みなさま、あたたかいクリスマスを、そしてどうぞよいお年をお迎えください。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile