England Swings!
サッカー女子EUROで初優勝、イングランド女子代表がくれた喜びと未来
その少女たちを代表することになったのがテスちゃんだ。きっかけは、準決勝の会場で中継カメラが偶然にテスちゃんをとらえたことだった。ライオネシスを全身で応援する天真爛漫な姿に大人たちは心をわしづかみにされた。一躍有名になったテスちゃんに話を聞くと、女子サッカーの大ファンで、将来はプロになりたいと話したので、女子サッカーに夢を抱く少女としてメディアにますますひっぱりだこになった。
This is what it's all about #WEURO2022 #BBCEuros #BBCFootball #Lionesses #BBCBreakfast would love to speak to this very happy fan and her family pic.twitter.com/3PZqKp8Vhc
-- BBC Breakfast (@BBCBreakfast) July 27, 2022
ライオネシスの初優勝に感激したのは少女たちだけではない。元少女だった多くの大人の女性も喜びの涙を流した。もともと女子サッカーのファンだった人や活動に関わってきた人たちも多いけれど、なかにはミランダ・ハートさんのような元少女もいた。
テレビや映画で活躍する人気コメディー俳優のミランダさんは、ライオネシスが優勝を飾った日にTwitterで、「泣いています。すばらしい。ゴールキーパーになりたいと願っている7歳の女の子がこれを観ているかと思うと、感激すぎて言葉になりません。わたしもなりたかった! でもそれが許されるとは思えなくて声に出せなかった。ありがとう、ライオネシス」(筆者抄訳)と投稿した。調べてみると、ミランダさんはプロの試験を受けたこともあるほどのサッカー好きだった。軽妙に人を笑わせる彼女が7歳だった頃を想像して、胸がいっぱいになる。
-- Lionesses (@Lionesses) July 27, 2022
On repeat. Forever.
Absolutely amazing, @alessiarusso7 pic.twitter.com/9B9Mt2V9eq
もうひとつ、イングランド女子の大活躍がもたらした喜びは、女子サッカーの明るい未来だ。女子サッカーにスポットライトがあたったことで、その楽しみやポテンシャルが広く知られてファンも急増した。この機会に、女子サッカーを見直して盛り立てていこうという流れが起きているのだ。
話は遡って約100年前、英国で女子サッカーが大人気だった時期があった。男性が兵役にとられて試合ができなかった第一次世界大戦中のことだ。スタジアムから観客があふれるほどの人気だったのに、戦後の1921年、「女性に向かないスポーツ」という理由でフットボール・アソシエーション(FA)の競技場では女子の試合がすべて禁止された。
大きな試合がなくなると人々の興味は自然に消えてしまったし、男子の試合も復活したので、50年後の1971年にプレーが解禁された後も、女子サッカーの人気は戻らなかった。最近のFA女子スーパーリーグ(WSL)のプロの試合でも、観客は数千人しか入らないそうだ。
そんな背景もあってか、女子サッカーは男子に比べて環境が整っていない。よく言われるのがプロの報酬の低さだ。ほんの数年前まで、代表チームの主力になるほどの選手でも別の仕事をかけもちしていたそうだ(かけ出しの芸人さんみたいだ!)。同じプロでも、プレミアリーグに所属する男子のスター選手は、20代で長者番付に名前が載るほど高収入なのに。他にも女子サッカーには、観客が集まらないので投資も限られて設備が整いにくい、プレーすることで女性差別を受けやすい、などの問題がある。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile