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ラッシャー貴子|イギリス

政府のスキャンダルもかきけす勢い、オミクロン株の緊急事態宣言

 クリスマスは英国人にとって大切な行事だ。家をにぎやかに飾りつけ、職場や友人の間で集まって楽しく騒ぎ、当日には家族で集まる。何か月も前から楽しみに待つ人もいるくらいだ。家でも外でも飲食するし、もちろんプレゼントも買うので経済効果も大きい。

 去年、ロンドンでは屋内での集まりが禁止されて、いつものようなクリスマスを過ごすことができなかった。一度は特例として宿泊まで認められた後での中止だっただけに、政府やジョンソン首相への恨みはいっそう深くなった。

 散歩友だちのインド人のおばあさんも、去年のクリスマスにひどくがっかりしたひとりだ。久しぶりに大家族で集まる計画を立てていたのに、生まれて間もないひ孫ちゃんに会えなくなってしまったのだ。「誰がどの食べ物を持ってきて、いつ誰がどこに泊まるかもすっかり考えてあったのに、ボリス(ジョンソン首相のことをいろいろな思いを込めてこう呼ぶ人が多いのです)のせいだわ」と、ほぼ1年経った今でも会うたびに愚痴をこぼす。こういう人が全国にずいぶんいるのだろう。クリスマスに会えないまま悲しいお別れになってしまったケースも多いようだ。

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オミクロン株が見つかるまでは、クリスマス時期のレストランはパンデミック前の90%以上の予約が入っていたそう。人気の店はどこも予約が取れなくて、12月の夫の誕生日には5時半から夕食を食べることになった。テラス席にもコートを着た人がたくさん。筆者撮影

 そんなにコロナの感染が広がっているのなら、プランBはしっかり守られるだろうと思いきや、このタイミングで政府のスキャンダルがすっぱ抜かれて、ややこしいことになっている。去年の12月に首相官邸でクリスマスパーティーがあったのでは? という疑惑で大騒ぎになっているのだ(クリスマスパーティーというと妙に陽気に聞こえるけれど、日本風にいうと忘年会のようなものだ)。

 首相官邸の職員はどうしても必要があって通勤していたのだと思うけれど、当時、イングランドでは職場や友人とのクリスマスパーティーを控えるのはもちろん、同居者以外と屋内で会うことさえできず、警察が違反を取り締まっていた。だから、庶民には我慢させておいて、首相官邸の職員はワインで浮かれるなんていい気なものだ、と怒りの声が噴き出したのだ。

 疑惑の発覚からほんの数日後、そのパーティーの話題で冗談を言っていた官邸職員の映像が流出して火に油を注いだ。報道官アレグラ・ストラットン氏が映ったこのビデオは、パーティーがあった証拠にはならないけれど、おどけて笑う彼女の姿にはあまりに緊張感がなくて、クリスマスを楽しめないストレスとはまるでかけ離れた世界。これが国民の気持ちをさかなでして、ばかにされたと怒る人がますます増えた。

 その後も、この報道官が大泣きしながら辞任したり、他にもいくつかパーティーがあったと報じられたり、以前から取り沙汰されていた首相官邸の改装費の資金源疑惑が再浮上したりと毎日何かしらスキャンダルが持ち上がって、まるでテレビドラマでも見ているようだった。そして12月11日にはとうとう、首相自身がパーティーのクイズゲームに参加していたことが発覚。参加したのはオンラインとはいえ、首相がパーティーの存在を知っていたことが明らかになった。パンデミックに激務を続ける職員を労うため、と説明しているけれど、ボリスの両脇に座った職員がサンタの帽子やラメを身につけたのんきな写真まで公開されて、力が抜けた。野党をはじめ保守党内でも批判が高まって、ボリスは大ピンチ。

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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