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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

サッカーEURO2020での3つの問題と、そこに見た希望

 騒いだ後は片付けもせず立ち去るので、朝には路上も広場もスタジアム周辺さえも割れたビール瓶やゴミで埋め尽くされた。銅像や二階建バスによじ登るくらいはまだご愛嬌としても(危険ですけど)、騒ぎで逮捕者も出ているし、対戦相手のサポーターに殴りかかる事件も一度ならず起きている。ふだんからサッカーの試合がある日は家庭内暴力が増えるというデータがあるそうだ。酔ってサッカーを観ると、興奮して気が大きくなるのだろうか。

 試合中のマナーにも首を傾げることが多かった。対戦相手の国歌斉唱にブーイング、相手側にボールが渡っただけでブーイング。これはテレビで見ていても気分がよくなかったし、準決勝ではデンマークのゴールキーパーの顔にレーザー光線を当てて試合を妨害する事件まで起きている。レーザーの件ではイングランドサッカー協会に罰金が課された。

 そしていよいよ決勝の日。キックオフは夜8時だったが、日曜ということもあって、朝から多くのファンが詰めかけた(さっきちらっと見たところでは、東京オリンピックの開会式も周りにずいぶん見物客が集まったそうですね)。歴史的な試合が行われるスタジアムをバックに記念写真を撮っているうちはまだ和やかだったが、夕方が近づくと雲行きが怪しくなった。入場者とも混じった数万人が満員電車並みの混雑の中で、酒を飲んだり煙幕をたいたり大はしゃぎ。これだけでも危険な状態なのに、さらには入場券を持っていない数百人がスタジアム内に乱入したのだ。SNSには、防犯フェンスを突破したり壁をよじ登ったりする衝撃的な動画が投稿された。乱入者は一部しか退場させることができず、試合中は観客席のあちこちでトラブルが起き、この件でも逮捕者が出ている。

 こういう騒ぎを起こすのはサッカーファンではなく、日頃のうさを晴らすために暴れにやってくるフーリガンだと信じたい。ただトラブルの規模を考えると、ほんの一部に煽られた一般のファンが加わった可能性も否定できないし、やはり全体に度を超えていたと思う。それだけ優勝への夢に浮かれていたということなのか、それともコロナ禍でのストレスなのか。

ヘイト - 1.jpegプレミアリーグ、チェルシーのスタジアム周辺にEURO2020の直前ぐらいまで掲げられていたバナー。No to Hate(ヘイトには反対)というメッセージとともに、それぞれの選手が登場していた。現在はメッセージのないバージョンに変更されている。筆者撮影

人種差別的な中傷

 イングランドは、決勝戦でPK戦の末、イタリアに負けた。この時にシュートを外したマーカス・ラッシュフォード、ジェイドン・サンチョ、ブカヨ・サカの3人は、全員が黒人選手だったこともあり、試合直後から3人のSNSのアカウントに人種差別的な心ないコメントが殺到した。

 ネット上のサッカー選手への人種差別的な発言は、実はかなり前から問題になっていて、スポーツ界全体でも大々的な撲滅キャンペーンを展開していた。試合前に選手が片膝をつくポーズをとるのもそのひとつだ。イングランド代表は今大会でも毎試合このポーズをとって、差別発言に抗議していた。

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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