England Swings!
実験としてライブ開催、ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2021
ヨーロッパ各地で外出規制が緩和され始め、長かった暗やみから少しずつ抜け出している。オフィスに人が戻り始めたイングランドでは、カフェやレストランでふつうに外食することもできるし(人数制限あり)、何か月も閉まっていた美術館、ホテル、劇場もドアを開き始めている。ポルトガルやオーストラリアなど一部の国への海外旅行や友だちとのハグも許可された(とはいえ、周りには慎重な人が多い印象だけれど)。
大人数で集まるのはまだ野外で30人までと限られるが、大型イベントの再開に向けて実験が進んでいて、4月はリバプールのナイトクラブに3000人、今月にはロンドンの音楽賞授賞式に5000人が集まった。参加者はコロナウィルス検査の陰性証明が義務付けられたが、会場内ではマスクもソーシャルディスタンシング(対人距離を空けること)もなし。コロナ前に近い形でクラブや生演奏を楽しんだ人たちは大喜びだった。
そんななか、5月22日にオランダでユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2021が観客を入れて開催された。昨年はコロナで中止になったので、ライブで開催されるのは2年ぶり。これもイベント再開に向けた実験のひとつだ。
ユーロヴィジョンは、ヨーロッパ各国を代表するアーティストが歌とパフォーマンスを競い合う年に一度のお国対抗歌合戦。日本ではそれほど知られていないが、全世界で約2億人が視聴する世界最大規模の音楽祭だ。ABBAを世に送り出した大会でもある(1974年スウェーデン代表で、曲目は「恋のウォータールー」)。政治とは関係がないので、EUを離脱した英国は今年も参加した(オーストラリアやイスラエルも参加している大会なのだ、音楽の世界ではまだ英国も仲間でしょう?)。それに英国は他の国に比べて視聴率が高いらしい。英国人はユーロヴィジョン好きなのだ。わたしもこの15年間、ほぼ毎年観ている。
IT'S HERE... it's REALLY HERE! #Eurovision
-- BBC Eurovision (@bbceurovision) May 22, 2021
8pm | BBC One | @grahnort | @jamesnewmanuk pic.twitter.com/mASUNA1NKX
今年で65回という歴史の長さ、ド派手な衣装や奇抜な演出が、どことなく日本の紅白歌合戦を思わせるユーロヴィジョンには、軽快なポップ、ヘビーメタル、お色気路線のダンスナンバー、歌い上げるバラード、コミックソング、お国柄が出る民謡調などなど、バラエティーに富んだ歌が登場する。が、毎年「これ......、なに?」といろいろな意味で驚いて目が釘付けになる組が必ず混じっている。ぶっとんだ衣装だったり、大げさな演出だったり、不思議なメロディーやリズムだったり。よかれと思ってやっているのだろうが、なんだか笑いがこみ上げてしまうゆるさがたまらない。
この歌合戦は本格的な音楽祭というより音楽とその場の雰囲気を楽しむお祭りなので、他であまり見られない個性的なパフォーマンスの方が会場もわきやすい。テレビを観ているわたしたちも、好き勝手に言いたい放題言うのが楽しい。だからユーロヴィジョンの夜はパブでテレビを観たり、家族や友人と集まったり、ツイッターでつぶやきを交換したりするのが理想的。テレビで観るだけなのにへんてこな仮装をしてくる人もいて、とにかく楽しんだもの勝ちのお祭りなのだ。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile