NYで生きる!ワーキングマザーの視点
NYPDで唯一の日本人として17年間勤務したガイ京美さんが任期満了となった<後編>
Hiroe:その他の対応で印象に残っている出来事はありますか?
京美さん: ある時、おばあちゃんがジェロ-ショット(お酒入りのゼリー菓子)を間違えて学校に持たせてしまったケースがありました。学校側がそれに気づいて警察を呼び、チャイルドアビューズ(児童虐待)の疑いとして扱われました。その場にはEMS(緊急医療サービス)も来て、大騒ぎになっていました。
Hiroe:それはただの間違いだったんですよね?
京美さん: ええ、おばあちゃんがただのミスでゼリーにお酒が入ってると知らずランチパックに入れてしまっただけでした。でも、白人のEMSスタッフ(救急隊員)は子供が絡むと色々な書類やエージェンシー(ACSなどAdministration for Children's Services、子供子どもサービス局)が介入するので特にパニックになることが多く、この時も同じでした。
Hiroe:保護者の対応はどうでしたか?
京美さん: お父さんが呼ばれたんですが、彼は黒人だったため、警察に対して警戒心を抱いていました。私はアジア系で、パートナーは黒人だったにも関わらず私達を嫌な顔をして睨み付けていました。私とパートナーは自分達は接触しない方が良いという判断になり、学校と緊急医療のスタッフに「これは虐待ではなく、単なる事故です」と説明できたのは良かったです。
Hiroe:このような対応をする中で、どんなことを感じましたか?
京美さん: 私自身、子どもの頃にアルコール依存症の父親から虐待を受けた経験があります。その気持ちが重なる部分もありました。実際、子どもたちの状況を改善するには、誰か大人が介入してシステムを動かさないといけないと感じます。今回のケースでは、間違いで済みましたが、子どもたちだけではなく親も不当な罪などに問われずにすんで良かったと思います。
Hiroe:そうした手助けを続けていきたいと思いますか?
京美さん: そうですね。直接的にその子の気持ちを癒すことはできなくても、システムが動き出す手助けをすることはできる。そういった支援をこれからもしていきたいと思います。
Hiroe:NYPDでの仕事を通して、どのようなことを感じましたか?
京美さん: 犯罪の背景には、「常識を知らない」「支援を受けられない」人々が多いと気づきました。たとえば、家庭内暴力の被害者や学校に酔って登校したり刃物を持ち込む子供たちなどです。こうした問題に対処する中で、根本的な解決の必要性を痛感しました。
Hiroe:退任後の生活について教えてください。
京美さん: 散歩をしたり、政治番組を観たりして過ごしています。それから、日本にいる新しいパートナーの存在も私の生活の一部になっています。オンラインで会話して楽しい時間を過ごしています。
Hiroe:長年NYPDで働かれた中で、特に大切にしてきた信念は何ですか?
京美さん: 犯罪を未然に防ぐためには、小さな段階での介入が重要だと考えています。小さな問題を見過ごすと、大きな問題に発展してしまうことが多いです。現場での対応力や教育的なアプローチが本当に求められると感じました。
※1... ハウジングプロジェクト(Housing Project) とは、アメリカの公営住宅制度の一部で、低所得者向けに政府や地方自治体が運営する集合住宅のことを指します。ハウジングプロジェクトがある地域では、犯罪率が高いとされることが多く、特に薬物や暴力犯罪が問題視されています。※2...ウィリアム・ブラットン(William "Bill" Bratton) は、アメリカの有名な警察官僚でDEあり、ニューヨーク市警察(NYPD)やロサンゼルス市警察(LAPD)などでの改革実績で知られています。彼が唱えた理論や活動は以下。
※2a...ブロークン・ウィンドウ理論(Broken Windows Theory)を実践しました。小さな犯罪を厳格に取り締まることで、より大きな犯罪の抑止を目指す手法です。コンプスタット(CompStat)という犯罪分析システムを導入し、犯罪の傾向をデータで可視化して警察活動を効率化しました。
※3...ポリスサイエンス(Police Science) とは、警察業務に関する科学的な研究や技術の応用を指す学問分野。犯罪捜査、法執行、犯罪学、司法制度、心理学、テクノロジーなどを組み合わせ、警察の活動をより効果的にすることを目的としている。※4...『子供を殺してください』という親たち」は、押川剛著によるノンフィクション作品で、精神疾患を抱える子どもを持つ親たちの苦悩と現実を描いています<新潮社>
「ケーキの切れない非行少年たち」は、宮口幸治氏著で、非行に走る少年たちの認知機能の問題に焦点を当て、その背景と支援の必要性を論じています<新潮新書>
【ガイ京美さんプロフィール】
三重県生まれ。結婚し渡米後にテキサス州で高卒の学歴をとった後、コミュニティーカレッジを卒業。2003年よりアメリカ陸軍でイラクに派遣された。2008年1月よりNYPDで警察官としてニューヨーク市のパトロール勤務。2025年1月にNYPDでの任期満了となる。
著者プロフィール
- ベイリー弘恵
NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。
NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com