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NYで生きる!ワーキングマザーの視点

ベイリー弘恵|アメリカ

NYPDで唯一の日本人として17年間勤務したガイ京美さんが任期満了となった<後編>


Hiroe:NYPDを辞めた後の生活について教えてください。

京美さん: NYPDを辞めた人の多くが普通の生活に戻るギャップを感じると聞いたことがあります。警察官の引退後の自殺はかなり深刻です。アメリカは拳銃を家に持ち帰るのでリスクが高まります。私は、幸か不幸か、乳がんの治療で1年半ほど仕事を休んでいた時期があり、徐々に仕事のない生活に移行できました。急激な変化がなかったことは、本当に良かったと思っています。

Hiroe:乳がんの克服も大変でしたね。

京美さん: 娘がいてくれたことはとても大きかったです。手術後の大変な時期には彼女に助けられました。何より精神的に支えてくれました。

Hiroe:シングルマザーで、娘さんを子育てをしていた時期にお会いしましたが、成長された娘さんに助けられたのですね。

京美さん: 本当にそうです。娘と仕事には全身全霊を尽くしてきました。娘が素晴らしい子に育ったのを見ると、それが自分の手柄なのかもしれないと思うことがあります。娘がいなかったら、今の私はいないと思います。

仕事にここまで全力で取り組むこともなかったでしょうし、人に対して優しい気持ちを持つこともできなかったかもしれません。彼女のおかげで、人間として成長できたと感じています。

Hiroe:犯罪や社会問題に対する現場での対応について、どのような考えをお持ちですか?

京美さん: 小さな問題の段階で対処することが本当に大事だと思っています。ウィリアム・ブラットン※2が唱えたブロークン・ウインドウ・セオリー(Broken Windows Theory)※2aと言うんですけど。たとえば、新人ホームレスの人が特定の場所にいるとき、「ここにいてはいけないよ」と伝えるだけでも状況は変わります。

Hiroe:それだけで状況が改善するのですか?

京美さん: ええ、そういう声かけが意外と効果的なんです。新人ホームレスは特にどういう地域に自分がいるとか、把握していません。「あなたがここにいるのを近所の人みんなが見ていてずーっといなくなるまで警察に電話するので、私は何度も戻って来ることになって同じことを言うことになりますよ」と伝えると、ほとんどの人は納得して去ってくれるんです。

Hiroe:対応が早ければ、問題が大きくなるのを防げるということでしょうか?

京美さん: その通りです。放置してしまうと、問題がどんどん広がり、人も増えて、最終的には対応するのに多くのお金や時間や人員(マンパワー)が必要になってしまいます。だからこそ、早めに対応することが重要なんです。

Hiroe:ポリスサイエンス※3の授業という言葉が端々にでたのですが、そこで得たものもは多かったですか?

京美さん: はい、とても興味深い授業でした。犯罪の背景や社会問題について深く学ぶことができました。 世の中を別の視点で見るようになりました。それまでは「嫌だな」と思っていたことも、「これは面白い」「学びがある」と思えるようになったんです。

自分でも「子供を殺してくださいという親たち」と「ケーキの切れない非行少年たち」※4の2冊に関心があります。

この2冊を読んで感じたのは、犯罪に至る背景にある「常識の欠如」や「認知機能の問題」が非常に深刻だということです。犯罪者の多くが普通の常識を知らない環境で育ってきたことです。

私もそうした人々と接する中で、引きこもりや社会問題の仲人役としてアシスト(支援)する仕事をしていたことの重要性を改めて感じました。一方で、こうした現実を知ることは興味深く、「面白い」と思える部分もありました。

Hiroe:仕事を通じて得た最大の教訓は何ですか?

京美さん: 嫌な状況でも楽しさや意味を見つけることの大切さですね。最初は乗り越えられないと思ったことも、視点を変えることで解決策が見えてくるんだと学びました。

Hiroe:DV(ドメスティックバイオレンス)の現場へ行ったことがあったと、以前にお話されてましたが?

京美さん:今でも涙が出そうになるような、忘れられないDVのケースがあります。それは、プエルトリコ系の家庭で男性が大暴れし、娘が助けを求めてきました。

現場にかけつけると、娘の寝巻きに血がついている状態でした。体格が良かったため、最初は彼女が14歳だとはわからなかったのです。

ベッドの上で、手にはテディベアを握りしめ、それをなでながら自分を落ち着かせようとしていたのが印象的で、まだ幼い子どもなのだということがわかりました。本来なら母親が娘をケアするべきだったのに、母親は彼氏のケアを優先し、娘を助けようとはしませんでした。

娘にとって、その状況から助け出してくれた私たちは大きな存在だったと思いたいし、助けることができたのだと願っています。

彼女はようやく自分を守る手段を得ることができ、この子の生活を変えてあげられることに立ち会えたことは、私にとっても忘れられない経験となりました。

Hiroe:他にも子供に関する犯罪に関わったことがありますか?

京美さん: あるとき、4歳の子供が情緒不安定で精神科に連れて行って欲しいという通報を受けたことがありました。現場に駆けつけると、その子供の母親が「この子は頭が悪い」とか「ダメな子」といった言葉で罵っていたんです。

その時私は、どうして私がこんな状況で親にアドバイスをしなければならないんだろう、と思うと同時に子供には、大人で味方になってくれる人がいる事を知って欲しいと思いました。

Hiroe:どのように対応をされたんですか?

京美さん: 母親に向かって、「あなたのお子さんは、まだ4歳なんです。親であるあなたが、こんな小さな子供の将来を決めつけてはいけません」と伝えました。まだ未来がある子供なのに、その可能性を親自身が閉ざしてしまうのは悲しいことです。

Hiroe:その後、子供はどうなったんですか?

京美さん: その子供は最終的に親の要望で、病院に母親同行で連れていかれました。後でわかったことですが、アメリカではフォスターペアレント(里親)の中には、子供を適切にケアできず、逆に問題を引き起こすケースも少なくないんです。

親が都合の悪いことがあるとすぐに子供を病院や施設に送ろうとするケースが多く、そうした対応もまた課題だと感じています。

Hiroe:警察としてそのような対応を求められることについてはどう思いますか?

京美さん: 正直、警察官が親に対してこうしたアドバイスをしなければならない状況は理想的ではありません。でも、現場では子どもを守るために言わなければならないこともあります。それが警察の仕事の一部だと受け止めています。

Profile

著者プロフィール
ベイリー弘恵

NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。

NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com

ブログ:NYで生きる!ベイリー弘恵の爆笑コラム

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