
NYで生きる!ワーキングマザーの視点
伊藤聖沙がミッドタウンの老舗シアターで自分語りミュージカル?

2月5日、ミッドタウンの老舗シアターDon't Tell Mamaにて、パフォーマー伊藤聖沙(いとう せいさ)さんのショーが開催された。その舞台は、一人芝居のようでもあり、スタンダップ・コメディーのようでもあり、さらにミュージカルの要素も含んだ、独創的な世界。観客は瞬く間に彼女の語りに引き込まれ、気づけば笑い声が会場を包んでいた。
1度目は彼女自身に直接お話を伺うための取材で訪れたのだが、そのお話の続きを演じているということで、後日再び公演に足を運んだ。今回はDrew Wutke(ドリュー・ウットキー)がピアノ伴奏を担当。彼はニューヨークを拠点に活動する音楽監督・アーティストであり、トニー賞ほか、グラミー賞、アカデミー賞ほか、著名な受賞者たちと共演する実力派ピアニストだ。
伊藤さんが長年憧れ、いつか共演したいと願っていたピアニストがDrew Wutkeだったのだ。 ニューヨークの音楽シーンで活躍する彼とのステージは、まさに夢の実現ともいえる瞬間。彼の洗練されたピアノの音色が、伊藤さんの歌声と語りにさらなる深みを与え、観客を魅了した。
ジャンルを超えた独創的なパフォーマンス
伊藤さんのステージでは、彼女自身の人生をベースにしたストーリーが展開される。全編英語で進行されるショーだが、その内容は非常にわかりやすく、英語を学ぶためにニューヨークに滞在している学生や、日本人観光客でも十分に楽しめるものとなっている。英語が得意でなくても、彼女の語るメッセージやユーモアはダイレクトに心に響き、観る者を自然と元気づける。
自身の人生を笑いに変える――共感を呼ぶストーリー
ショーでは、帰国子女として日本で経験したいじめや、幼少期に感じた文化の違和感などがユーモラスに語られる。例えば、日本で見かける下品な幼児向けアニメに戸惑ったエピソードや、親から投げかけられるネガティブな言葉への疑問。時にはちょっとエッジの効いた話題も交えながら、彼女の視点を通じて、日本の文化を客観的に見つめ直すきっかけを提供している。
アムステルダムへ移住していた時期の出来事については、彼女が大人になってからの体験だからこそ、お酒やちょっとエッチな話題も交えた軽快なトークが展開された。しかし、彼女が語るとなぜだか決して下品ではなく、まるで高校時代の修学旅行でガールズトークをしているような気楽さと楽しさがあった。興味深いのは、会場にいたアメリカ人の男性客も、その話を真剣に聞いていたこと。
シアターとはいえ、小さな劇場なのでワインやお酒を飲みながらというスタイルなのだけど、その真剣なまなざしに圧倒された。
「セレブレーション」人生を祝うということ
伊藤さんがショーで伝えたいメッセージの一つが、「セレブレーション(祝福)」の概念だ。しかし、それは華やかなパーティーを意味するのではない。彼女の言う「セレブレーション」とは、自分の過去を含めて今の自分を受け入れ、肯定すること。
「昔こんな失敗をしたけれど、それがあったから今の私がいる」
「あのときは大変だったけれど、それも含めて私の人生」
過去の苦しい経験をも肯定し、前を向く姿勢。そのメッセージがショーの随所に込められており、観る者に「どんな自分でも大丈夫」と思わせてくれる温かさがある。
幼少期にニューヨークで育ちブロードウェイを観てからミュージカルに憧れパフォーマーになろうと目指したのは、いったんは外資系のIT企業で働いた後という現在。ダンスもCOVIDの流行で外出できない時期にアムステルダムから発信されるオンラインで学んだ
「タップだけは必死に練習してる!」と笑う彼女。今回のショーではそのダンスを見ることは叶わなかったものの、彼女の歌声はその場の空気を一変させる力を持っていた。軽やかで心地よい歌声が、観客に癒しのひとときを提供する。
一般人でも自分の人生を舞台にできる時代へ
有名人でなくても、SNSやブログで自分の人生を発信し、それを書籍化できる現代。そして伊藤さんは、その先の世界へと踏み込んだ人物だ。彼女のステージは、まるで「自分語りをミュージカル化する」という新しい表現の形を体現しているようだった。
もちろん、伊藤さんはミュージカルのプロであり、歌やトークのレッスンを受けているため、一般の人とは比べものにならないほどのスキルを持っている。しかし、この「個人の物語を舞台に乗せる」というコンセプト自体が新しく、今後のエンターテインメントの可能性を広げるものではないだろうか。
観客との距離が近い空間で生まれるエネルギー
公演が行われた Don't Tell Mama は、アットホームな雰囲気が魅力のシアターだ。近年、オフ・ブロードウェイでは、観客がよりパフォーマーを身近に感じられる小規模なシアターの人気が高まっている。観客もショーの一部になり、舞台と客席の垣根が低くなることで、より深い没入感が生まれる。
伊藤さんのショーも、まさにそのスタイル。彼女の語りは、まるで友人とカフェで語り合っているかのような親密さを感じさせる。ショーが終わる頃には、観客一人ひとりが「また明日から頑張ろう」と前向きな気持ちになっていることだろう。
次回公演も見逃せない!
公演は2月いっぱい続く予定だ。この機会に、ニューヨークでしか味わえない唯一無二のステージを体験してみてはいかがだろうか。観る者の心を動かし、笑いと感動を届ける伊藤聖沙のステージ。きっと、あなたの心にも響くに違いない。
チケットはこちらから>>>https://www.waitwhatcabaret.com/tickets

- ベイリー弘恵
NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。
NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com