NYで生きる!ワーキングマザーの視点
ニューヨーク暮らしで学んだ孤独を糧にアガサ・クリスティー原作のミュージカルSUNDAYに挑む高野菜々
今回のアガサ・クリスティーの作品に対する意気込みは?
「前回の公演から今回まで、『生きる』への出演やニューヨークで過ごしたことで大きく自分が変わりました。舞台上での相手とのキャッチボールもそうですが、見に来られるお客さんともそれができればと思います。
これはニューヨークに行く前から感じていたことでもあります。2019年に『7dolls』という、ポール・ギャリコの『七つの人形の恋物語』を原作にした作品で人形の役をやらせていただいたことがあり、一番最初に出てきてお客さんとやりとりするシーンがあったんですが、なかなかそれができませんでした。
どうすればよいのかと演じていく中で気づいたのは、お客様にも、いろんな悲しいことやつらいことがあるということでした。私が想像し得ないほどの悲しみの最中の方もいらっしゃる。
そういうものを心で共有することができたときに、自分の中で客席と一体になれた感覚がありました。来てくれる方々の人生を愛おしく感じ、道がパーッと拓けたんです。
自分が表現している原動力は『孤独から逃れたい』という気持ちです。
友達もいるし、こうして仕事でお話をさせていただくこともできるし、日常を見渡せば別に孤独を感じることはないって思うのですが、人間は誰もが一人で死んでいくわけですからね。
どんなに孤独から逃れようともがいても、逃れられないときはある。人を信じようと思っても、約束に『絶対』はありませんし、わかりあえてると思っていてもわかりあえていないことだってあります。
この間、音楽座ミュージカルの代表も言っていたのですが、素晴らしいコメディアンはニヒルであったり、悲しみを知っているからこそ笑いに変えられる。笑いを使って、絶望を希望に変えられるのだと。
私も、ともに孤独な存在である舞台に立つ自分たちと客席をつなげる架け橋になりたいなぁ~と思いました。」
まるでメンタルをケアするセラピーのようですね。
「そうかもしれないですね。特に今度上演する『SUNDAY(サンデイ)』という作品は、それにピッタリかもしれないです。アガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』という小説を原作にしたオリジナルのミュージカルで、舞台は1930年代のイギリス。
弁護士の夫をもち、3人の子供を育ててあげた一人の女性が主人公です。中流家庭で何不自由なくすごしている彼女は、自分の支えで家族がある、と信じています。
ある日、末の娘のために中東へ行くのですが、その帰り道に大雨が降って砂漠の真ん中で動けなくなり、そこにある汚いレストハウスで過ごさなければならなくなります。
砂漠でやることもなく、持っていた本も読み終えてしまって時間ができるんですね。もう、何かを考えるしかなくなって、幸せだった過去を思い出そうとするんですが、どの場面でも『あれ?』と思うような瞬間がある。
本当は夫や子どもたちを苦しめていたのか?じゃあ、あの出来事はどうだったんだろう?あの人は?ひとつ疑問を感じはじめると、どんどんどんどんいろんなことが思い出されてくるんです。
今まで一生懸命やってきて、自分のおかげで皆幸せに過ごしていたと思っていたのに...歌詞にもあるのですが、砂漠の強い光に照らされて自分の影が濃く浮かび上がってきてしまった、そんな感覚ですね」
世界中、どこにでもありそうな主婦の話ですね。とっても興味を持てます。
「原作と異なる、音楽座ミュージカルならではの結末になっているので、そこもお楽しみいただきたいです。音楽座ミュージカルは、今回のアガサ・クリスティー作品だけでなく様々なオリジナルのミュージカルをゼロから創り続けているミュージカルカンパニーなので、ぜひ海外からのお客さんにも観に来ていただきたいです。」
今回、アガサ・クリスティー財団にも著作権等の許可を得て、公演できることになったということですが、欧米でも未だミュージカルになっていないアガサ・クリスティーの舞台を世界へ広げていけるといいですね。
【プロフィール】
高野 菜々(こうの なな)
広島県出身。血液型A型。広島音楽高校を経て、2008年6月から音楽座ミュージカルに参加。初舞台で主役に抜擢、圧倒的な歌唱力と大胆な演技が注目され、以降、常に主要な役柄をつとめてきた。声優では賢プロダクションに所属、『タンブルリーフ』フィグ役(主役)、『妖怪ウォッチ2』フミアキ役、ディズニー・チャンネル『パグ・パグ・アドベンチャー』ビンゴ役(主役)など活躍している。TOKYO FM、広島FM『Dream Theater』で3年間ラジオパーソナリティをつとめた後、広島FMにて『THEATER NANA』のパーソナリティをつとめた。2020年、「SUNDAY(サンデイ)」における演技で「令和2年度(第75回)文化庁芸術祭賞(演劇部門 新人賞)」受賞。
【関連リンク】
■音楽座ミュージカルについて Webサイト:
1987年の旗揚げから現在に至るまで、一貫したテーマで日本のオリジナルミュージカルを創り続けています。それぞれの作品は「生きる」ことの根源を問いかける精神性とオリジナリティを高く評価され、文化庁芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞、読売演劇大賞など多くの演劇賞を受賞しています。
著者プロフィール
- ベイリー弘恵
NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。
NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com