NYで生きる!ワーキングマザーの視点
ニューヨーク暮らしで学んだ孤独を糧にアガサ・クリスティー原作のミュージカルSUNDAYに挑む高野菜々
菜々さんは、日本でもお友達がたくさんいて、いつも忙しくされてるのだとばかり思ってました。
「2008年に音楽座ミュージカルに入団してからは、カンパニーのみんなと家族より長く一緒にいるので、独りぼっちと感じることがなかったんです。
ニューヨークには相談相手も信頼できる相手もいなかったので、心にぽっかり穴があいたような気がしました。今思えば良い経験でした。」
そこからどうやってお友達をつくっていったのですか?たまたまライブでお隣に座ったコリアンのカップルの女性は、菜々さんと英会話のクラスで同じだっておっしゃってましたが。
「4月にルームシェアをしているお宅へ引っ越したのですが、そこのラテン系のオーナーの女性がとても明るくてアクティブな方だったんです。つらいことがあるといつも彼女に相談していました。
幼稚園の先生をしているという方でしたが、ライブのときにも20人くらいお友達をつれてきてくださったんですよ。こうした人との出会いによって、ニューヨークで成長させてもらった感覚があります。」
「生きる」の舞台で、市村正親さんや、鹿賀丈史さんといった大御所の役者さんと共演なさったことは、どういう感じなのでしょうか?
「19歳の入団から音楽座ミュージカルの作品だけに出演してきたので、外部出演は初めてでした。ニューヨークにいたときにも感じたことですが、この外部出演でも、自分が大切にしていることを握りしめているばかりで手放さなければ、新しいものは得られないと気づかされたんです。
勇気をもって自分の譲りたくない価値観を変えなければ、新しい世界へ行くことはできない。手放す勇気をもつ大切さを知りました。
これまでは、音楽座ミュージカルの作品のテーマを自分自身が背負って忠実に再現しなければならないし、伝えるべきことを舞台を通して、自分が責任をもって伝えるべきなのだと思っていたのです。
日常生活では、そのようなことはしていませんよね。未来のことはだれにもわからない。たとえば本を読んでいて、この本を絶対に何時間後に読み終えようってがんばっても、途中で誰かに話しかけられたら止まります。予期していないことが起こるのが日常です。
満ち満ちているものより、余白のある中で私たちは生きているにもかかわらず、舞台になると100パーセントに満たせておかなくてはって思ってたんです。
でも、私が最初から目的地に向かってわき目をふらずに突っ走らなくても、お客様は作品からそのメッセージを受け取ってくれる。台本が導いてくれるんです。
ゼロの出発地点から走り出しても、物語が導いてくれるので、自分が役柄としてどう物語の中で生きるかを決めて進めていくのではなく、ただ相手役からもらうものに嘘をつかずにコミュニケーションしていくことによって、生きるように演じられるということをなんとなく気づかせてもらいました。
『生きる』で私が演じさせていただいたのは、日々、ワクワクすることを探している役でしたが、通し稽古を初めてやったときは、これまでのように『この役はこうだから』と演じるスタイルを決めてやっていたところもありました。ところが、演出家の宮本亞門さんから違う意見をいただきました。
役柄のもつ子供心というか、遊び心に出会ったときのように、楽しいって思ったら楽しめばいいし、嫌だと思えば嫌でいい。台本に書かれていることを頭で考えて忠実に再現することも大切ですが、その瞬間に相手役から感じたとおりに自分の気持ちを向けていいんだと感じ、そう演じようと思いました。」
著者プロフィール
- ベイリー弘恵
NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。
NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com