コラム

移住者人気No.1の北杜市 シャッター街と馬がいる理想郷を抜けて

2020年01月10日(金)18時30分

撮影:内村コースケ

第15回 長坂駅 → 富士見高原スキー場
<平成が終わった2019年から東京オリンピックが開催される2020年にかけて、日本は変革期を迎える。令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた>

map1.jpg

「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

map2.jpg

これまでの14回で歩いてきたルート:YAMAP「活動データ」より

「移住人気No.1」のイメージと既存市街地のコントラスト

7R401601.jpg

JR長坂駅近くの商店街の一角

前回の記事でチラリと触れたが、山梨県北杜市は、都会からの移住先として非常に人気が高い。ランキング上位の常連で、例えば、この種のランキングとして最もメジャーな『田舎暮らしの本』(宝島社)の「住みたい田舎」ランキングでは、2018年度に総合1位となっている。

県北西部の旧北巨摩(きたこま)郡の8町村(長坂町・須玉町・高根町・小淵沢町・白州町・大泉村・武川村・明野村)が合併してできた南アルプスと八ヶ岳に挟まれた高原の町で、市域にある清里高原や小淵沢エリアは、「平成の大合併」以前から避暑地や別荘地として人気があった。首都圏からのアクセスの良さと自然環境の良さのバランスが取れているため、団塊の世代のリタイアと共に始まった近年の移住ブームにあって、さらに人気は高まっている。実は、僕の親戚も2組、定年後に東京と千葉から共に北杜市に移住しているが、バリバリのキャリアウーマンだった叔母のように、仕事を続けながらの「週末移住」からスタートし、徐々にこの地に生活の軸足を移すパターンが多い。

今回の旅のスタート地点は、前回の最後に立ち寄った「オオムラサキの里」の先のJR中央本線・長坂駅である。旧長坂町は北杜市のほぼ真ん中に位置するが、駅周辺の中心市街地は、忌憚なく言わせてもらえば寂れている。超少子高齢化・首都圏一極集中がますます進む今の日本では、どこの田舎町も同様で、長坂が特に寂れているというわけではないのだが、「移住人気No.1」のキラキラとしたイメージを抱えて駅に降り立つと肩透かしを食らうだろう。

7R401534.jpg

個人経営の書店と床屋さんなどが並ぶ商店街。コンビニの駐車場からの情景

北杜市で移住者が多く集まるのは、東の清里高原、北の八ヶ岳山麓エリア、西の南アルプス山麓エリアだ。古くからの住民は、それらに囲まれた谷底を走るJRの駅や国道20号・141号周辺の既存市街地で暮らしている。そこには、他の一般的な田舎と同様、シャッター街と崩れかけた空き家が点在する昭和と平成の遺産のような町並みが広がる。"準ゴーストタウン"という僕の造語を当てはめると言い過ぎかもしれないが、東京一極集中の社会構造が抜本的に変わらない限り、本当に昭和の亡霊がゆらゆらと闊歩する場所になりかねない。長坂の商店街で生きていたのは、どこの田舎でも共通の塾と自動車整備工場、理髪店、コンビニ。そして、これは結構珍しいが、書店くらいであった。かつては地元で有名だったという電機店のビルは、シャッターが降りて錆びついていた。周囲の住宅地には、やはり空き家が目立つ。

7R401552.jpg

大きな電機店のビルもシャッターが降り、錆びついていた

7R401611.jpg

空き家にはかつての住人の服がそのままに

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story