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米国大統領選挙を揺さぶった二つのサイバーセキュリティ問題
米国大統領選挙を揺るがすサイバー攻撃
ようやくクリントンの電子メール問題が落ち着いたところ、また別の問題が出てきた。米国民主党全国委員会のサーバーに不正侵入が見つかった。民間のサイバーセキュリティ会社が信頼できる証拠を示し、ロシア系のAPT28、APT29と名付けられたグループによるものとされた。民間のサイバーセキュリティ各社は、彼らが追いかけている攻撃者グループにそれぞれ名前を付けている。今回の攻撃は、手口、活動時間帯、過去の標的からロシアの政府かインテリジェンス機関と強いつながりがうかがえるという。彼らは過去にも米ホワイトハウスや東欧諸国政府などを標的とした。ロシアは旧来のスパイ技術を使って偽の情報を流し、他国に混乱を引き起こして政府機関や当局への信頼を損なわせようとしているという(日本経済新聞、2016年7月27日)。
そうして盗まれたデータはウィキリークスの手に渡り、クリントン陣営内部の情報や、民主党全国委員会の内部のやりとりが暴露されるに至り、クリントン陣営はさらに打撃を受けた。
10月7日には国土安全保障省(DHS)長官と国家情報長官(DNI)が、ロシア政府がサイバー攻撃に関与していると発表した。
蒸し返された電子メール問題
大統領選挙も最終盤になった10月28日、先述の通り、FBIは突然、「関連すると思われる」新たなメールが見つかったとして、クリントンに対する調査を再開すると発表した。これはリードを示していたクリントン陣営に打撃となり、一気にトランプが追い上げ、大票田で、激戦州と言われるフロリダではトランプ支持が上回った。
さらに不思議なことに、投票2日前の11月6日になってFBIは、新たに見つかったメールのほとんどはすでに調査済みで、訴追しないという結論は変わらないと発表した。FBI内部での対立が原因と言われるが、政治的な意図を疑われかねない対応である。これでクリントン支持はわずかに回復するが、しかし、結果的には十分な回復にはつながらず、11月8日の大統領選挙でクリントンは敗北し、トランプが接戦を制することになった。
外されたNSAとFBI?
トランプ当選は、多くの人たちに衝撃となったが、従来は反ロシアの傾向が強い米国の共和党支持層では、トランプ政権成立に貢献したとしてロシアへの好感度が高まっているという(朝日新聞、2016年12月18日)。こうした変化を受け、先述のように、オバマ大統領はロシアを強く非難し始め、自らが大統領に当選した2008年にさかのぼって調査をするように米国のインテリジェンス機関に命じた。その対応の中心になっているのは、インテリジェンス・コミュニティ全体を統括するDNI、そして中央情報局(CIA)のようである。
こうしたサイバー攻撃に関しては、通常、主たる役割を果たすのは国家安全保障局(NSA)である。NSAはなかなか表に出てこない組織で、手柄はFBIやCIAに譲ることもある。しかし、今回はやや事情が異なるかもしれない。
というのも、大統領選挙後の11月20日、国防長官のアシュトン・カーターとDNIのジェームズ・クラッパーがオバマ大統領に対し、NSA長官のマイケル・ロジャーズ海軍提督の更迭を求めているとワシントン・ポストとCNNが報じたからである。ただし、更迭要求は大統領選挙の前の10月にオバマ大統領に伝えられたようだ。その理由は、ロジャーズ長官が「サイバー攻撃の脅威に対処し得る必要不可欠な組織再編に迅速に取り組まなかった」からだという。
現在の体制ではNSA長官はサイバー軍(USCYBERCOM)の司令官も兼任しているが、2016年前半から両者を分離する案が議論されてきた。さらには、ロジャーズ長官はトランプ政権の国家情報長官人事で候補者のひとりに浮上しているという報道もある。大統領選挙後の11月17日には、個人的な旅行の名目でトランプ次期大統領と会談したという。FBIのコーミー長官もまた、大統領選挙への不可解な介入で批判を浴びている。こうした報道が正しいとすれば、オバマ政権内のサイバーセキュリティ対応に乱れが出ていることになる。
2009年1月にオバマ大統領が就任した際、ジョージ・W・ブッシュ大統領から引き継いだ秘密作戦のひとつが、イランの核施設に対するサイバー攻撃であるSTUXNETだったとされている。それから8年後の2017年1月のトランプ大統領就任に際しても、サイバーセキュリティは重要な課題として引き継がれることになるだろう。
サイバーセキュリティ、そして情報やデータの暴露が大統領選挙や国際政治に大きく影響する時代が来ている。
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