最新記事
ウクライナ情勢

苦悩増すゼレンスキー大統領...戦争は「素人大統領」をどう変えたのか

2024年7月18日(木)20時20分
ゼレンスキー大統領

戦火で鍛えられ、米ワシントンで今月開催されたNATO首脳会議で西側諸国の指導者に強く行動を求めた今のゼレンスキー氏は、ショービジネス界で名をはせたテレビコメディアンはもとより、大統領になりたての頃の政界初心者とはまるで別人だ。写真はキーウで5月、ロイターのインタビューに応じるゼレンスキー氏(2024年 ロイター/Gleb Garanich)

強烈でせっかち、かつ睡眠不足──。これがウクライナの戦時体制を率いるボロディミル・ゼレンスキー大統領(46)の過酷な日常だ。

2019年に大統領に当選したとき、ゼレンスキー氏の目標はウクライナを現代的な民主国家にすることだった。だがそれは、2022年に始まったロシアによる侵攻により打ち砕かれた。


 

大統領就任5年目を迎えた元コメディアンのゼレンスキー氏は5月、ロイターのインタビューで「5年前に私が望んでいたのは、ただ、自由主義経済を備えた非常にリベラルな国家だけだった」と語った。

だが最近のゼレンスキー大統領は、国内最大の小児病院が被害にあった空爆に対する怒りと苦悩のあまり、ロシアのプーチン大統領への殺意を口にした。

戦火で鍛えられ、米ワシントンで今月開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で西側諸国の指導者に強く行動を求めた今のゼレンスキー氏は、ショービジネス界で名をはせたテレビコメディアンはもとより、大統領になりたての頃の政界初心者とはまるで別人だ。

ゼレンスキー氏はかつて、ウクライナ版「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」を勝ち抜いたこともある。

ウクライナの首都キーウ(キエフ)で大統領就任の宣誓を行ったのは2019年。細身の身体にスタイリッシュなスーツをまとい、ひげをきれいに剃った少年のような顔つきだったゼレンスキー氏は、今やすっかり年を重ね、がっしりとして表情も険しく、お約束のように準軍事組織の戦闘服を着て、無精ひげと目の周りのくまが目立つ。

ゼレンスキー氏はロイターとのインタビューで、自分自身に関する質問の大半からは逸れて、ウクライナの戦時同盟国の一部に対する強いいら立ちに焦点を当て、核心となる「もっと西側諸国の支援が必要だ」というメッセージを繰り返した。

ロイターは、ゼレンスキー氏と共に働いてきた現・元ウクライナ当局者及び外国当局者8人のほか、過去に接点のあった複数の友人や同僚に話を聞いた。

彼らの説明によれば、リーダーとしてのゼレンスキー氏は、かつてよりタフで決断力が増し、ミスに対してより厳しく、偏執的な傾向さえ示しつつ、不眠不休のストレスや疲労にも耐えているという。

ゼレンスキー政権のレズニコフ元国防相は「睡眠不足政権だ」と述べ、大統領は着替えと歯ブラシの入ったバッグを手にウクライナ中を飛び回っていると続ける。その日の晩をどこで過ごすか読めない場合も多いからだ。

「切れ切れの睡眠、それが大統領の日常だ。夜間に協議を行い、時間を問わず、下院・上院で演説している」とレズニコフ氏。「年中無休、昼夜を問わずストレスモードにある。ゴールのないマラソンだ」

準備不足の部下には容赦しない。

ゼレンスキー氏のチームメンバーによると、ゼレンスキー氏は、部下の官僚や顧問が十分な準備をしていないと感じると退室を命じるという。このメンバーは、今年に入り動員計画を巡る情報キャンペーンを策定するためのミーティングで、いら立った大統領が側近らを解任した様子を振り返った。

「相手が準備をしていない、あるいは互いに矛盾していると判断すると、彼は『ここから出て行け、私にはこんなことをしている時間はない』と言う」とこのミーティングに出席していたチームメンバーは話す。ありのままのゼレンスキー氏について語るため、匿名を希望している。

インタビューに応じた人々の多くは、ゼレンスキー氏の精神的な持久力と、ウクライナの大統領、軍最高司令官、国際社会への窓口としての役割に適応する能力に感嘆していると口にする。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均2カ月ぶり4万円、日米ハト派織り込みが押し

ワールド

EU、防衛費の共同調達が優先課題=次期議長国ポーラ

ワールド

豪11月失業率は3.9%、予想外の低下で8カ月ぶり

ワールド

北朝鮮メディア、韓国大統領に「国民の怒り高まる」 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 6
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 9
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中