苦悩増すゼレンスキー大統領...戦争は「素人大統領」をどう変えたのか
戦火で鍛えられ、米ワシントンで今月開催されたNATO首脳会議で西側諸国の指導者に強く行動を求めた今のゼレンスキー氏は、ショービジネス界で名をはせたテレビコメディアンはもとより、大統領になりたての頃の政界初心者とはまるで別人だ。写真はキーウで5月、ロイターのインタビューに応じるゼレンスキー氏(2024年 ロイター/Gleb Garanich)
強烈でせっかち、かつ睡眠不足──。これがウクライナの戦時体制を率いるボロディミル・ゼレンスキー大統領(46)の過酷な日常だ。
2019年に大統領に当選したとき、ゼレンスキー氏の目標はウクライナを現代的な民主国家にすることだった。だがそれは、2022年に始まったロシアによる侵攻により打ち砕かれた。
大統領就任5年目を迎えた元コメディアンのゼレンスキー氏は5月、ロイターのインタビューで「5年前に私が望んでいたのは、ただ、自由主義経済を備えた非常にリベラルな国家だけだった」と語った。
だが最近のゼレンスキー大統領は、国内最大の小児病院が被害にあった空爆に対する怒りと苦悩のあまり、ロシアのプーチン大統領への殺意を口にした。
戦火で鍛えられ、米ワシントンで今月開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で西側諸国の指導者に強く行動を求めた今のゼレンスキー氏は、ショービジネス界で名をはせたテレビコメディアンはもとより、大統領になりたての頃の政界初心者とはまるで別人だ。
ゼレンスキー氏はかつて、ウクライナ版「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」を勝ち抜いたこともある。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)で大統領就任の宣誓を行ったのは2019年。細身の身体にスタイリッシュなスーツをまとい、ひげをきれいに剃った少年のような顔つきだったゼレンスキー氏は、今やすっかり年を重ね、がっしりとして表情も険しく、お約束のように準軍事組織の戦闘服を着て、無精ひげと目の周りのくまが目立つ。
ゼレンスキー氏はロイターとのインタビューで、自分自身に関する質問の大半からは逸れて、ウクライナの戦時同盟国の一部に対する強いいら立ちに焦点を当て、核心となる「もっと西側諸国の支援が必要だ」というメッセージを繰り返した。
ロイターは、ゼレンスキー氏と共に働いてきた現・元ウクライナ当局者及び外国当局者8人のほか、過去に接点のあった複数の友人や同僚に話を聞いた。
彼らの説明によれば、リーダーとしてのゼレンスキー氏は、かつてよりタフで決断力が増し、ミスに対してより厳しく、偏執的な傾向さえ示しつつ、不眠不休のストレスや疲労にも耐えているという。
ゼレンスキー政権のレズニコフ元国防相は「睡眠不足政権だ」と述べ、大統領は着替えと歯ブラシの入ったバッグを手にウクライナ中を飛び回っていると続ける。その日の晩をどこで過ごすか読めない場合も多いからだ。
「切れ切れの睡眠、それが大統領の日常だ。夜間に協議を行い、時間を問わず、下院・上院で演説している」とレズニコフ氏。「年中無休、昼夜を問わずストレスモードにある。ゴールのないマラソンだ」
準備不足の部下には容赦しない。
ゼレンスキー氏のチームメンバーによると、ゼレンスキー氏は、部下の官僚や顧問が十分な準備をしていないと感じると退室を命じるという。このメンバーは、今年に入り動員計画を巡る情報キャンペーンを策定するためのミーティングで、いら立った大統領が側近らを解任した様子を振り返った。
「相手が準備をしていない、あるいは互いに矛盾していると判断すると、彼は『ここから出て行け、私にはこんなことをしている時間はない』と言う」とこのミーティングに出席していたチームメンバーは話す。ありのままのゼレンスキー氏について語るため、匿名を希望している。
インタビューに応じた人々の多くは、ゼレンスキー氏の精神的な持久力と、ウクライナの大統領、軍最高司令官、国際社会への窓口としての役割に適応する能力に感嘆していると口にする。