最新記事
アメリカ

観光客向け「ギャングツアー」まであるロサンゼルス...地図に載らない危険な境界線はどこか

2024年7月4日(木)17時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

翌年、彼らに対して続いていたネガティブなメディア報道にあおられて、暴徒化した白人兵士が当時流行っていたズートスーツというぶかぶかで派手な服を着たメキシコ系の若者を襲撃した。白人たちの目には、ズートスーツは配給服地の無駄使いで、愛国心の欠如の表れと映ったのだ。

たいていの場合、警察はメキシコ系のパチューコだけでなく、そうした不快な身なりをしていない黒人やフィリピン系が暴力を振るわれても傍観しているだけだった。なかには、暴行に加わったあげく、加害者ではなく被害者を逮捕する警官もいた。

こうしてロサンゼルスでは、保護と奉仕が役目であるはずの人々と、民族的および人種的にマイノリティの若者たちのあいだで、何十年にもわたって相互不信と暴力がぶつかり合うことになる。

今日でも、ズートスーツの着用は「公共の迷惑行為」に該当するとして、ロサンゼルスでは違法になっている。

黒人ギャング同士の抗争へと発展していった

第二次世界大戦が終わると、ストリート・ギャングの活動の中心は、イースト・ロサンゼルスからサウス・セントラル・ロサンゼルスへと拡大し、ヒスパニックだけでなく、黒人のギャングが次々と結成された。

ワッツなど低所得者の集まる地域は、すでに人口過密と失業が問題になっており、若い黒人男性は、彼らを排除しようとする近くのコンプトンの白人労働者からしばしば攻撃を受けていた。

黒人の若者が歓迎されていないことは、仲間意識や自分の帰属先を見つける機会の欠如からも明らかだった。ボーイスカウトの支部をはじめ、白人の若者には門戸を開くその他の組織から締め出され、労働市場や住宅市場、さらには教育制度における厳しい差別を肌で知った。スローソンズ、ビジネスメン、グラディエーターズといった初期の黒人ギャングは、その空白を埋めるために創設された。

当時、メキシコ系ギャングはすでに近隣地区の支配権をめぐって抗争を繰り広げていたが、黒人ギャングの縄張りはおもに地元の学校とその周辺にあり、黒人の学生は縄張り内で、悪質なレイシスト団体であるスプーク・ハンターズのような好戦的な白人の若者のギャングから身を守ろうとした。

ところが、白人が郊外に引っ越すにつれて(黒人家庭にはとうていできない選択だった)、一部の黒人ギャング同士で対立するようになった。特に、サウス・セントラル・ロサンゼルスのウエストサイド・ギャングは、普段からイーストサイドのライバルを見下しており、社会経済的な境界線をはさんで分断ができあがった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中