ガザ戦争でアメリカは信用を失い、EUは弱体化、漁夫の利を得るのは「意外なあの国々」
The World Won’t Be the Same
EUトップの深刻な亀裂
3点目。ガザ地区の紛争はウクライナにとって最悪だ。メディアはガザ情勢一色に染まり、ウクライナ支援を支持する世論は後退している。
アメリカでは下院共和党が支援継続に難色を示している。10月4日から16日にかけて行われたギャラップの世論調査でも、アメリカ政府のウクライナ支援は過剰だと考える人が41%に上った(6月時点では29%にすぎなかった)。
もっと面倒な問題もある。ウクライナ戦争は激しい消耗戦となっており、いくら砲弾があっても足りない。
だがアメリカも同盟諸国も、ウクライナのニーズを満たすだけの兵器を生産できない。ウクライナ軍の戦闘能力を維持するため、アメリカは韓国とイスラエルに置いていた武器弾薬を転用せざるを得なかった。
そこへ突然、イスラエルで戦争が始まった。
こうなると、ウクライナに武器弾薬を送る余裕はなくなる。それでウクライナ軍が劣勢に立たされ、万が一ウクライナ軍が崩壊し始めたら、バイデン政権はどうすればいいのか。
EUにとっても頭の痛い問題だ。ロシアのウクライナ侵攻で、多少の軋轢はあったにせよ、欧州の結束は強まった。10月のポーランド総選挙で、極右政党「法と正義」が政権の座を追われたことも好ましい変化だった。
しかしガザ紛争で欧州の亀裂が再び表面化した。今はイスラエルを無条件で支持する国もあれば、パレスチナの大義に共感を示す国もある。
EUの大統領格であるウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長と、外相格のジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表の間にも深刻な亀裂が生じている。
「フォンデアライエンはイスラエル支持に偏りすぎている」と批判する書簡に、約800人のEU職員が署名したとも報じられている。
この戦争が長引けば長引くほど、こうした亀裂は広がっていく。
それはまた欧州外交の弱みを浮き彫りにし、世界の民主主義国を一つの強力な連合体にまとめるという壮大な目標に向かう動きを後退させかねない。
西側諸国にとっては最悪な展開だが、ロシアと中国には願ってもない朗報だ。
アメリカの目がウクライナや東アジアからそれるなら大歓迎。しかも中東なら、自分たちは高みの見物を決め込める。
一方で今回のガザ紛争は、アメリカの一極支配よりも多極的な世界秩序のほうが好ましい、という中ロ両国の長年の主張に一定の論拠を与える。