最新記事
中東

ガザ戦争でアメリカは信用を失い、EUは弱体化、漁夫の利を得るのは「意外なあの国々」

The World Won’t Be the Same

2023年11月16日(木)12時04分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

231121P28_CSG_03.jpg

地中海の米空母打撃群 JACOB MATTINGLYーU.S. NAVY

中東政策はどうか。バイデン政権はサウジアラビアが中国に接近するのを防ぐため、イスラエルとの関係正常化を条件に、サウジアラビアに一定の安全保障を約束し、場合によっては核関連技術へのアクセスも認めようとしていた。

だが、そんな離れ業が決まる保証はなかった。

そもそもパレスチナの問題に目をつぶり、占領地でのイスラエル政府の蛮行に見て見ぬふりをしている限り、いずれ火を噴くのは避けられない。そういう批判があったのも事実だ。

そこへ10.7の奇襲があり、戦争が始まった。その地政学的な意味と、アメリカ外交への影響はいかなるものか。

まず、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化に向けたアメリカ政府の努力は水泡に帰した(ある意味、ハマスの狙いどおりだ)。

むろん、これを永遠に阻止するのは無理だろう。関係正常化を促した事情は何も変わっていないからだ。しかし、行く手を阻む障害は増えた。

2点目。最近のアメリカは中東に費やす時間と労力を減らし、アジアに向ける時間とエネルギーを増やそうとしていたが、この戦争でそうはいかなくなった。

なにしろ時間は限られている。バイデン大統領やアントニー・ブリンケン国務長官が毎日のようにイスラエルや中東諸国に飛んでいたら、他の場所に十分な時間と関心を割くことはできない。

アジアの専門家であるカート・キャンベルを国務副長官に起用したことで状況はいくらか改善されるかもしれない。

それでも中東で火の手が上がった以上、アジアに割くことのできる外交的・軍事的能力が中短期的に低下することは間違いない。

しかも国務省内部では、政権の露骨にイスラエル寄りな対応に中堅幹部が反発しており、混乱が生じている。問題の解決は難しくなるばかりだ。

要するに、今回の中東での戦争は台湾や日本、フィリピン、その他中国からの圧力に直面している国々にとって好ましいニュースではない。

今の中国は経済面で苦しい状況にあるが、それでも台湾や南シナ海での軍事的挑発を止める気配はない。最近も南シナ海上空で米軍B52戦略爆撃機に、中国のJ11戦闘機が異常接近する事態があった。

今は米軍の空母2隻が地中海東部に派遣されており、アメリカ政府は中東から目を離せない。だからアジア情勢が一気に暗転した場合、アメリカが効果的に対応できるかどうかは疑わしい。

そして仮にも、ガザでの戦闘がレバノンやイランにまで広がったらどうなるか。アメリカとその同盟国はさらに多くの時間と資源を中東地域に向けざるを得まい。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国製造業PMI、3月は50.4に改善 需要が回復

ワールド

石油製品の供給に一部で偏り、首相からは安定的確保で

ワールド

豪、16歳未満SNS禁止法の順守状況巡り大手各社を

ワールド

米ガソリン小売価格、1ガロン4ドル突破 イラン戦争
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 8
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 9
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 10
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中