最新記事
アメリカ

「沈黙」する米潜水艦隊...本誌の調査報道が暴く「不十分すぎる」運用の実体

SUNK COST

2023年5月19日(金)12時30分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

230523p18_Chart_01.jpg

米海軍広報室のジャクリーン・パウ中佐は、本誌の問い合わせに対し、米海軍の潜水艦隊は「世界で最も致死力が高く、世界の海で活動しており、迅速に粘り強い作戦を展開する準備がある」と答えた。米軍は「非対称の優位を利用して戦争を抑止し、抑止できない場合は敵を制圧する。海軍は、潜水艦隊を含め、アメリカの暮らしを守り、支えるために今夜も戦う準備ができている」。

22年5月末、コネティカット州ニューロンドンの海軍潜水艦基地で、攻撃型原子力潜水艦オレゴンの就役式が行われた。海軍の発表によると、オレゴンは全長約115メートルで、水深約250メートルまで潜水でき、潜水中は時速56キロで航行できる。また、長距離ミサイル発射管や、約4800キロ先の船舶も探知できるソナーなど最先端の装備を持ち、巡航ミサイルトマホークを12発、魚雷約40発のほか、機雷や対艦ミサイル、さらには無人潜水艇を搭載できる。

「オレゴンは近く、そのステルス性、柔軟性、優れた火力、継続的な潜航力を生かして、世界の海を潜航するだろう」と、フランク・コールドウェル海軍大将(原子炉管理局長でもある)は式典で高らかに語った。オレゴンは「戦闘に備え、必要とあらば迅速に、警告なく、深海から攻撃を行い、国家の要請に応える」。

ただし、それはそんなに「近く」実現というわけにはいかなかった。

就役から9カ月たっても、オレゴンは米東海岸で船員の訓練とシステムの試験を行っていた。その間、コネティカットの母港から短い訓練航行に22回出ただけだった。海軍第6艦隊に加わり、初めてヨーロッパまで航海したのは、ようやく今年2月13日のこと。シチリア島沖で毎年行われるNATOの対潜戦合同演習「ダイナミック・マンタ」に参加するためだ。ついに潜水して、そのステルス性を発揮したのは、就役から1年近くたった3月第2週のことだ。

「優れた能力やウオータージェット推進システムなどがあるといっても、(運用面では)オレゴンは既存の攻撃型潜水艦と何ら変わらない」と、先述の退役海軍将校は言う。

この人物によると、米軍の潜水艦は、就役期間の75%以上を定期的な保守整備と将来の航海に備えた「精密検査」に費やす。海軍の発表によると、オレゴンの30年間の就役期間中には、15回の長期配備が予定されている。合計すると90カ月で、確かに就役期間の25%程度しかない。

だが、潜水艦の運用とはそういうものだと、この元海軍将校は言う。「こうした潜水艦が前方展開されれば、優れた働きをするのは間違いない。だが、その運用は極めて複雑なプロセスを伴い、ハリウッド映画のようにはいかない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中