「沈黙」する米潜水艦隊...本誌の調査報道が暴く「不十分すぎる」運用の実体
SUNK COST
米海軍の今の目標は、核弾頭を搭載した弾道ミサイルを発射できる潜水艦を更新し、攻撃型潜水艦と巡航ミサイル搭載潜水艦の保有数を増やすことで、今のところ66隻を目指している。議会の承認を得られたら、年間3、4隻を建造することになるが、米海軍の過去の建造実績はお寒い限りだ。修理や保守点検もここ10年ほどの記録では予定どおりに完了できた作業は20~30%にすぎない。
新たな艦船の建造も予定より何カ月も遅れており、米会計監査院が最近、米海軍のスケジュールは「信頼できない」と報告したほどだ。
議会予算局(CBO)によれば、次世代の攻撃型潜水艦の建造費は1隻72億ドルと見積もられている。十数隻建造される新型のコロンビア級弾道ミサイル潜水艦は最終的には1隻83億ドル前後になる見込みだが、最初の1隻の建造費は兵器システムとしては史上最高レベルの150億ドル前後になりそうだ。ペイロードが大きい誘導ミサイルを搭載する潜水艦は1隻88億ドルと見積もられている。
米海軍はステルス性を高めた潜水艦に人工知能(AI)や量子コンピューターなど「津波のように押し寄せる新技術」を組み込む構想を掲げている。とはいえ現時点で潜水艦の戦力を増強する最も重要な技術は航空、海上、潜水の無人システムだ。陸上の戦闘スタイルを大きく変えたドローンは、潜水艦の活動にも劇的な変化をもたらしつつあり、将来的には対潜戦の性質が変わるとみる専門家もいる。
01年の9.11同時多発テロ後に中東で行った作戦行動から20年余りを経た今、米軍が「対中国」に軸足を移しつつあることは疑う余地がない。今や潜水艦はアメリカや同盟国の艦船の対中防衛にとどまらず、「台湾有事」、つまり中国が自国の領土の一部と見なす台湾に攻撃する事態を抑止・阻止する役割も担っていると、米海軍の上層部はみている。
米海軍が潜水艦隊を増強すれば、中国はそれに対抗するために技術開発に莫大な資金を費やし、資源を枯渇させるかもしれない。ちょうど冷戦時代に旧ソ連がアメリカとの軍拡競争にのめり込んだために崩壊に追い込まれたように......。
だが問題は、それ以上に潜水艦の実戦での有用性に大きな疑問が付きまとうことだ。「わが国の潜水艦が最強の兵器プラットフォームであることは間違いない」と、米国防総省の元調達担当幹部は言う。「だが、そろそろ優先順位を見直すべき時期に来ている。ウクライナ戦争で分かったのは(潜水の深度とは)違う深さ、兵器在庫の『深さ』が重要なことだ。実戦では基本的な銃と弾薬が大量に消費される」
元幹部はこうも付け加えた。「自分たちが作った神話に縛られて、この現実を見失ってはいけない」
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