アングル:日本の不動産は「まだ安い」、脱ゼロインフレで変わる投資戦略

4月4日、日本の不動産価格は上がり続けているが、まだ安いとみる投資ファンドの資金を引き付けている。写真は東京タワーの展望台から見た麻布台ヒルズ森JPタワー。2023年11月、都内で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Miho Uranaka Anton Bridge
[東京 4日 ロイター] - 日本の不動産価格は上がり続けているが、まだ安いとみる投資ファンドの資金を引き付けている。物価上昇や賃上げによりかつての「価格を上げられない国」ではなくなりつつあり、不動産市場にも賃料上昇の余地が生まれた。資本効率向上に伴い不動産の売却を検討する企業が増える中、潤沢な遊休不動産への関心も高まり、停滞していた海外マネーが日本へと動き出している。
<相次ぐ日本特化型ファンド、投資戦略に変化>
「インフレ環境下での不動産投資に大きな可能性を感じている」──。米資産運用会社ブルックフィールド・アセット・マネジメントのマネージングディレクター土田育新氏は、日本のゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレの時代が終わり金利・物価の上昇が不動産に反映されていく中で「市場のダイナミクス(力学)が変化している」と話す。
その変化の一つが、日本での不動産投資のためにファンドや資産運用会社が資金調達を相次いで行っていることだ。
複数の関係者によると、米モルガン・スタンレーが運用する日本特化の不動産ファンドは、6月のクロージングを前にすでに1000億円規模の調達が視野に入っている。モルガン・スタンレーはコメントを控えた。
国内勢では、プライベートエクイティ(PE)ファンドのインテグラルが1月に不動産ファンドを立ち上げ資金を集めている。同社の中井宏典パートナーは、金利ある世界の到来で「これまでの安定志向から、金利を上回る十分なリターンが取れる商品が求められている」と話す。住谷智宏パートナーは米ブラックストーンで不動産取引に携わった経験を生かし、リノベーションや賃上げによって高リターンを得ることを目指すと語った。
ブルックフィールドの土田氏も「交渉力や適正な運営など、物件の実力を十分に引き出す能力が必要になる」と指摘。日本に特化したファンドを組成することも今後あり得ると明らかにし、新たな資本が必要とされている不動産投資信託(REIT)の分野でも、持続的な成長を支える具体的な策を提供していきたいと語った。
世界のPEファンドでも、アジア系のヒルハウス・インベストメントや欧州系EQT、米ウォーバーグ・ピンカスなどが日本拠点の設立や人員体制の拡充に動いている。
<オフィス投資が再開、企業の遊休資産も魅力>
日本の不動産投資の拡大傾向を最も反映しているのが、取引額が比較的大きくなる都心のオフィス物件への投資が再開したことだ。
今年に入りブルックフィールドが中国の政府系ファンドから「目黒雅叙園」の一部所有権を、ブラックストーンが西武ホールディングスから「東京ガーデンテラス紀尾井町」を取得した。いずれも結婚式場やホテルにオフィスビルが併設されている。
米国などと比べてコロナ禍後の従業員のオフィス回帰が顕著な上、労働人口が不足する中で人材の確保、採用やつなぎ留めの側面からも、駅近物件や機能が充実したオフィスの重要性が高まっている。
加えて、三井住友信託銀行の北口夏樹常務は「日本企業のコーポレート・ガバナンス向上や資本効率改善の流れも投資家を引き付けている」との考えを示す。「ガバナンス改善を起点にして遊休不動産が市場に出てくる可能性がある一方で、こうした不動産に投資し価値を上げるというストーリーが、出資者に訴求しやすく外資のファンドなどから好まれる傾向にある」とみている。
西武HDのほか、サッポロホールディングスなども資産効率向上のため保有不動産の整理を進めている。ゴールドマン・サックス証券のチーフ日本株ストラテジスト、ブルース・カーク氏は、日本の上場企業の不動産関連の含み益は25兆円に達すると試算。「未実現の不動産含み益を大量に抱えている場合、(物言う株主などの)投資家がそれらを解放するよう促す力はかつてないほど強まっている」という。
<さらなる上乗せは海外マネー、過熱には懸念も>
三井住友トラスト基礎研究所によると、日本の不動産へのクロスボーダー投資資金は2020年をピークに減少を始め、24年7―9月期までは前年を大きく下回っていた。世界的に金利が上昇する中で投資が細ったのが要因だが、「足元では大きく状況が変わってきている」と大谷咲太投資調査部長は指摘、データセンターへの投資が膨らみ10―12月期は大幅に増加した。
大谷氏は「これまで日本への投資になじみがなかった欧米の大規模な年金基金や投資ファンドなどから、日本の不動産に投資したいという相談が増えている」として、25年も海外資金の流入が続くとみる。世界的に不動産投資が再開する局面で、イールドギャップ(投資利回りと長期金利との差)が高く割安にみえる日本に注目が集まっているという。
一方で、投資が加速し競争が過熱した結果、物件によってはオーバーバリューとなる危うさもはらむ。
2月に商業施設「東急プラザ銀座」を取得した、アジアを地盤とする不動産投資ファンドのガウ・キャピタル・パートナーズで日本を統括するイザベラ・ロー氏は「金利が上昇しているにもかかわらず流動性が高く競争は激しくなっているため、投資家にとっては少しリスクが高まる状況になっている」と警鐘を鳴らす。引き続き日本の不動産投資には積極的だが、より慎重に投資を進めていく考えを示した。