「沈黙」する米潜水艦隊...本誌の調査報道が暴く「不十分すぎる」運用の実体
SUNK COST
ジブラルタルの英海軍基地に5日間停泊した後、オールバニはノルウェー海に向かった。ロシアのウクライナ侵攻で第2次大戦以来ヨーロッパにおける最大の戦争が始まったときには、潜航73日目を迎えていた。さらに3月20日にはスコットランドのファズレーン英海軍基地に寄港。数日後に出航して4月5日にはノルウェーのトロムソに現れ、さらに2週間ほどノルウェー沖を潜航し、計3万5000カイリの航海を終えて5月14日に母港に帰還した。
母港で通常の保守点検を終え、乗組員が交代して8月16日に出航。米海軍と南米各国の海軍が長年実施している多国籍の海軍演習「第63回ユニタス」に参加した。今年の主催国はブラジルで、オールバニは9月に同国のマデイラ海軍基地に5日間停泊し、9月26日に帰還した。
ブラジルに派遣されたことは公表されておらず、北大西洋での73日間の潜航についても詳細は明らかにされていないが、オールバニはスケジュールどおりの航路をたどったはずで、そのスケジュールは1年以上前に組まれた可能性がある。
「潜水艦の活動で理解すべきは、スケジュールが全てということだ」と、サンディエゴを拠点とする潜水戦隊の現役の将官は言う。「潜水艦が(計画にない海域に)時には通告なしに姿を見せることもあるが、(ウクライナ戦争が起きた)22年のような年でもそれは非常にまれだ」
本誌が入手した米海軍の機密文書もこの発言を裏付けている。昨年、事前の計画と異なる海域に姿を見せた潜水艦はミシシッピ、ニューメキシコ、ニューハンプシャー、コネティカットの4隻のみ。それもウクライナや台湾に関連した出動ではなく、ただの訓練だった。「(計画された航路を外れること)自体、計画されている」と、将官は肩をすくめる。
事前に計画した動きであっても、潜水艦が突然浮上することで「シグナルを送れる」と、海軍大学の教授は言う。つまり中国とロシアにアメリカが軍事大国であると誇示し、同盟国を守る意思を示し、米軍は敵の潜水艦が活動する海域にいつでも出動する用意がある、と伝えられるのだ。想定外の海域に想定外のやり方で浮上することがシグナルになる。
例えば大西洋艦隊の3隻、ノースダコタ、ジョン・ウォーナー、インディアナは昨年5月、ロシアの隣国ノルウェーの港湾にほぼ同時に寄港したが、これは明らかにロシア向けのシグナルである。
中ロの潜水艦が他国の周辺で不穏な動きを見せたら、米海軍の攻撃型潜水艦が即座にそれを阻止できると、海軍の専門家は口をそろえるが、現実にはそんな出番はまずない。