英米シンクタンク、NATO軍・米軍、ベリングキャット──対ロシア情報戦の裏側
最近、ロシア軍の戦車がウクライナ軍の榴弾砲によって破壊される映像が公開されていた。それは西側が提供した位置情報をもとに、ウクライナ軍がドローンや兵士を現地に展開し、目標にレーザーを照射して、レーザー誘導の砲弾を命中させている場面だった。
また、ロシア軍の将官が現地で次々と戦死しているが、これも同様である。通信の傍受によって彼らの動きを察知し、その情報を西側から得た車両の動きの情報と合わせて分析する。その上で、ロシア軍将校の位置を特定し、現地に狙撃兵を展開させ、狙撃する作戦である。
つまり、ロシア軍に対して正確なピンポイント攻撃を行えるのは、西側諸国が提供した情報が大きな役割を果たしているからなのである。
このようにウクライナ軍の作戦を見るだけでも、情報という武器を使った、米国、英国を中心とする西側の関与が見えないところで大規模に行われていることが推察できる。
軍民が結集した情報戦
ウクライナという狭い領域から離れて、国際社会という空間に目を転じるとウクライナ支援のための情報作戦がとてつもない規模で行われていることに驚かされる。
ウクライナ戦争では、ロシアが侵攻を開始する前から、それを察知した米英の情報機関が中心となって情報をメディアなどにリークし、それによってロシアの計画を狂わせようとする情報戦が行われていたことはよく知られている。
実はその中心的な役割を果たしているのは民間のシンクタンクである。
英国のRUSI(英国王立防衛安全保障研究所)と米国のISW(戦争研究所)がその一翼を担っている。筆者はRUSIの日本特別代表を務めており、立場上、詳細を明らかにすることは避けるが、例えば、英国政府の情報部門は定期的にシンクタンクの専門家を集めて非公式にブリーフィングを行っている。
その時に提供された情報はもちろんシンクタンクの研究報告に反映されるが、同時にメディアにもリークされる。政府が直接リークするのではなく、シンクタンクを介して行われることが多い。そのほうが社会的に信頼され、情報の拡散効果も大きいという判断からである。
例えば、ロシアが侵攻を開始する前、世界の多くのメディアや研究者は「ロシアの侵攻などあり得ない」という見解を発信していた。
そうした中で、RUSIだけは2月15日、侵攻開始の9日前、「ウクライナ破壊の陰謀」と題した報告書をネット上に掲載し、ロシアがウクライナ全土の征服を目指した全面侵攻を始めるという分析を明らかにした。報告書は、ロシアがウクライナ北部、東部、南部から侵攻を開始することを予想して、地図を添付してロシアの侵攻ルートまで詳細に明らかにしていた。
それらはすべて実際の侵攻ルートとほぼ重なり、RUSIの正確な分析が高い評価を得た。