最新記事

ウクライナ戦争

英米シンクタンク、NATO軍・米軍、ベリングキャット──対ロシア情報戦の裏側

2022年6月15日(水)16時10分
秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所〔RUSI〕日本特別代表)
ロシア軍

正確に攻撃され炎上するウクライナ東部ルハンスク州のロシア軍拠点(ウクライナ軍提供) Special Operations Forces Command/Handout-REUTERS

<西側諸国はウクライナに武器供与をしているが、それだけではない。軍民が総力でウクライナを支えており、実はシンクタンクがロシアとの情報戦で中心的な役割を果たしている>

先日、ポーランドの首都ワルシャワで開かれたNATO軍司令部と欧州シンクタンクの会合に参加する機会を得た。この会合はウクライナ戦争の現況についてNATO軍司令部の情報担当者が説明するものだった。

そこで強く印象を受けたのは、西側諸国は軍と民間が協力して見えないところで深く戦争に関与しているという現実であった。

情報という武器

ウクライナ戦争では、西側諸国は武器の提供をウクライナに行っているだけで、直接的な介入はしていないように見える。

しかし、果たして本当にそうなのだろうか。確かに義勇兵を除けばウクライナ領内でロシア軍と戦っている西側の兵士はいない。ただし、介入していないということは関与していないということを意味しない。

ロシアが侵攻した時、ウクライナではすでに米国、英国、カナダの特殊部隊が活動していた。彼らは、ロシアが2014年にクリミアを併合して以来、ウクライナ軍を西側の近代的な軍隊にするため、兵士たちの教育、訓練にあたってきた。

しかも、その訓練のカリキュラムは単なる戦術や武器使用だけではなく、心理作戦や電子戦、情報戦など近代戦において重要な領域までカバーしていた。特に情報戦については、米国、英国は特殊部隊とは別に情報機関のスタッフをウクライナに派遣し、ウクライナ情報当局と協力関係を構築してきた。

彼らはロシアがウクライナに侵攻する直前までウクライナ国内で活動していたが、侵攻後、完全になりを潜めた。

彼らは今、何をしているのか。実はウクライナ軍の参謀本部や情報局でNATO側との連絡官として極秘に活動している。

具体的に言えば、ウクライナ軍に作戦面でのアドバイスを与えることや、西側の情報の提供、通信の妨害と傍受、心理作戦としての情報の発信、ゼレンスキー大統領らウクライナ政府指導部の安全確保、西側から提供された兵器の搬入の支援などが任務である。

例えば、ウクライナ軍がロシア軍の戦車や走行車両を対戦車ミサイルなどで撃破していく光景がSNSやニュース映像でよく紹介されるが、あれは決して偶然遭遇したロシア軍の部隊をやみくもに攻撃しているわけではない。

ウクライナ軍がロシア軍機を対空ミサイルで撃墜した時も、黒海のロシア軍艦を対艦ミサイルで撃沈した時も同様である。その裏側で情報を提供しているのは常に西側である。

実はウクライナとの国境に近いポーランド上空や黒海上空の国際空域にはNATO軍や米軍のAWACS(空中警戒管制機)や電子偵察機が常に飛行している。また、黒海の国際水域にもNATO諸国の情報収集艦が展開し、常にロシア軍の動向に目を光らせている。

そして、こうして得た情報はウクライナ国内で活動している西側の連絡官にリアルタイムで送られ、連絡官はこうした情報を取捨選択しながらウクライナ軍に提供している。

その情報に基づいて、ウクライナ軍はドローンを飛行させたり、偵察兵を派遣して目標を確認、攻撃を行うのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中