NASAが40年ぶりの金星ミッションへ 気候変動で何が起きるのかを探る
金星は、気候変動や保持していた水を失ったとき惑星に何が起きるのかなどを読み解くロゼッタストーン...... Credits: NASA/JPL-Caltech
<2つの惑星探査ミッションが始動。地球とほぼ同時期に誕生しながら高温と硫酸の惑星となった、金星の謎を解き明かせるか>
NASAはこのほど、金星探査プロジェクト2つを同時に発表した。1978年のパイオニア・ヴィーナス計画以来およそ42年ぶりの金星探査機として、2030年度の打ち上げを目指している。プロジェクトはそれぞれ、比較的低予算での惑星探査を想定したコンペ「ディスカバリー2019」から選定されたものだ。低予算とはいえ、NASAはそれぞれに約10億ドルを投じる。
選定されたミッションの1つ目は「DAVINCI+(ダヴィンチ・プラス)」と呼ばれるもので、ひらめきと先見性に秀でたレオナルド・ダヴィンチに由来する。このミッションの核となるのは、2つの探査機だ。打ち上げ後、大型の探査機が金星の公転軌道付近を周回し、2年間で金星を2回フライバイする。その際、紫外線カメラで雲の動きを追跡するほか、放射熱を測定して地表組成の推定に活用する。
打ち上げから2年後、大型機に搭載した直径1メートルほどの小型探査機を放出し、小型機は約1時間の下降を経て金星の地表に着陸する。装備したセンサーを通じ、金星の大気の組成、気温、気圧、風速などを測定する計画だ。小型機は近赤外線カメラも備えており、分厚い雲の層を抜けたタイミングで、巨大な高地であるアルファレジオの鮮明な姿を捉える。
2つ目のプロジェクトは「VERITAS(ヴェリタス)」と呼ばれ、地形の解析に特化したものだ。高解像度の3Dデータを取得し、これまで把握できなかった細かな構造を明らかにする。また、高さ方向の変化を測定する干渉合成開口レーダーと呼ばれる機器を使用し、地表の活断層の状況を捉える。地球の人工衛星以外への同レーダーの搭載は初の試みだ。
かつては水と生命が存在したかもしれない
地球と金星はほぼ同時期に誕生し、サイズや太陽からの距離なども互いにさほどかけ離れているわけではない。しかし、地球が生命と水の惑星になったのに対し、金星は生命の生存に厳しい環境となった。金星の気圧は地球の90倍で、地表温度は鉛が溶けるほどの高温となり、雲は硫酸でできている。何が二つの惑星の運命を分けたのかは謎に包まれており、NASAは金星を「ミステリアスな地球の双子」とも呼んでいる。
二つの惑星の差をめぐって現在議論されている説に、かつて地球と同様に水でできた海が金星にも存在したとする考え方がある。その後、7億年ほど前に起きた圧倒的な温室効果が急激な気温上昇を招き、高温で海が消滅してしまったのだという。はるか昔に水があったのであれば、その時点では生命が存在した可能性も残されている。こうした説を検証するデータを得ることも、今回のミッションに期待される成果の一つだ。
DAVINCI+の主任研究員であるジェームス・ガーヴィン氏はNASAのニュースリリースのなかで、「気候変動や居住適性の変化、そして長期にわたり保持していた水を失ったとき惑星に何が起きるのかなどの記録を読み解くうえで、金星は『ロゼッタストーン』のような存在です」と語る。解読を待つ貴重なデータの宝庫というわけだ。