最新記事

インドネシア

孤児支援の募金かたりテロ活動 バリ爆弾テロの実行組織、まさかの資金調達方法

2020年12月3日(木)20時10分
大塚智彦

インドネシアの雑貨店では募金箱を見かけることが一般的だ。SBTV Pangkalan Bun / YouTube

<202人もの犠牲者を出したテロ事件の実行組織が、長年活動してきた資金の出所は意外なところだった>

インドネシアの国家警察と対テロ特殊部隊である「デンスス88」は、同国のイスラム系テロ組織である「ジェマ・イスラミア(JI)」がコンビニエンスストアやガソリンスタンドなどの一般商業スペースに設置した募金箱を使ってテロ活動の資金を調達して武器購入、爆弾製造などの元手に充てていたことを解明したと発表した。

募金箱はいずれもJIが設立した孤児支援団体などを名乗ったNGO団体を装い、JIメンバーがボランティアとかたり、投じられた募金を回収していたという。

インドネシアの人口約2億7000万人の約88%という圧倒的多数を占めるイスラム教徒の間では「持てる者は持たざる者や困窮者を助ける」という喜捨(寄付)の精神があり、イスラム教礼拝施設である「モスク」などには「寄付のための箱や入れ物」がよく設置されている。

またインドネシアでは街中で生活困窮から道行く人に寄付を求める人の姿も珍しくなく、多くの人が小銭を手渡す姿が日常的にみられる。

こうしたイスラム教徒の相互扶助の精神を悪用したテロ組織による「募金箱」設置は、一般のイスラム教徒からも「イスラム教の精神を踏みにじるもの」と批判を浴びている。

善意を悪用した「寄付詐欺」の全容は未解明で、募金箱に投じられた寄付総額も現在のところ明らかになっていないが、過去約20年間にわたって募金箱作戦が続いていたとみられることからかなりの金額になると指摘されている。

逮捕したJIメンバー24人の捜査

インドネシアの主要メディアのひとつ「ジャカルタ・グローブ」電子版が12月2日に伝えたところによると、国家警察のアウィ・スティヨソ報道官はJIのメンバー24人を10月から11月にかけてインドネシア各地で逮捕したことを1日に明らかにした。

発表によると、スマトラ島南部ランプン州で8人、ジャワ島のジャカルタ首都圏の8人をはじめ、中部ジャワ州4人、西ジャワ州2人、バンテン州とジョグジャカルタ特別州で各1人の合計24人のJIメンバーをテロ関連容疑で逮捕したという。

この24人の中にはJIがこれまで関与した数々の爆弾テロ事件で、爆弾製造やメンバー募集などに関与した疑いがある幹部容疑者2人が含まれているという。

そしてこの24人の容疑者への取り調べの過程で、JIの活動資金の調達方法の一つとして「募金箱」が使われていた実態が明らかになったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャーの円債が条件決定、総額900億円は過

ワールド

米大統領、大手法律事務所に通商交渉での「無償」支援

ビジネス

ECB、ノンバンク起因の金融リスク警告 市場ストレ

ワールド

トランプ氏、メキシコに制裁・関税警告 「水を盗んで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が見せた「全力のよろこび」に反響
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    右にも左にもロシア機...米ステルス戦闘機コックピッ…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中