インドネシアTV局員死亡事件 他殺から一転自殺と判断した警察発表に深まる謎
遺体隠した葉、殴打痕への説明なし
マスコミの間では事件発生直後からヨディ氏の財布や現金、携帯電話など所持品が一切奪われていなかったことから「物取りの犯行」は除外され、ヘルメットをかぶったまま首や胸を刺されていることから激しい怨恨に基づく殺人事件として顔見知りの犯行説が浮上していた。そして事件直後から警察が重点的に事情聴取をしていた29人の関係者の中に重要参考人が含まれているとの見方が強まっていたことも事実だ。
さらにヨディ氏の遺体が発見された時に遺体の上には大きなバナナの葉が2枚、遺体を隠すように置かれていたこと、さらに警察の解剖所見で刃物による刺し傷以外に殴られた痕とみられる箇所が複数あったことなど警察が「他殺説」を当初とった理由に関する合理的説明もなされないままの「自殺説」という結論に対して疑問の声がでる事態となっている。
腐敗体質が依然として残る警察組織が有力な容疑者を隠蔽したりすることはいくら何でもありえないだろう、という見方は強い。そうなると「自殺説への変更」の背景として「捜査が完全に行き詰まりお手上げ状態になったものの世間の注目が高く、何らかの捜査結果を出さなくてはならない」という状況から導き出されたのが「自殺説」との分析が浮上している。
つまり初動捜査段階から警察はミスを重ねて、当初自信をもって主張していた「他殺説」の立証が極めて困難な局面に陥ったという見方である。
それを裏付けるという訳ではないものの、会見で「自殺の可能性が極めて高い」と結論を出した犯罪捜査課のトゥバグス課長は「もし別の情報や証拠があるならば、我々はそうしたあらゆる可能性のためにドアは常に開けてある」とも会見で述べているのだ。
これは警察としては現時点では最善の捜査を尽くたが、見落としている点や未知の情報、証拠があるならばいつでも捜査をするという釈明、言い訳といえないだろうか。
ヨディ氏の父親は25日、テレビ局の取材に対して「警察の自殺という結果には全く満足していない。いつもと変わったところがなかった息子が自殺するなどあり得ないと確信している」と述べて、警察の捜査結果に対して疑問を露わにしている。
インドネシア警察が自らその能力不足を認めているようにも聞こえる発言に対してヨディ氏の家族や恋人、知人からも納得する声は聞こえてこない。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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