最新記事

事件

インドネシアTV局員死亡事件 他殺から一転自殺と判断した警察発表に深まる謎

2020年7月27日(月)16時25分
大塚智彦(PanAsiaNews)

5つの理由には疑問点ばかり

だが、これまでの捜査や通常の殺人捜査(特に日本の警察の場合)のケースからみて不可解な点が多く含まれていることも事実である。例えばHIV検査を受けた病院によれば検査結果はヨディ氏の死までに判明しておらず、当然本人はその結果を知らなかった。つまりHIV検査は自殺動機にはならないということである。

さらに本人が購入したとされるナイフだが、当初の警察発表では凶器とみられる血痕の付いたナイフが遺体の周辺から回収され、それとは別のナイフがヨディ氏のジャケットのポケットから発見されたとしており、このナイフを巡るに謎には全く言及していない。

恋人との関係も遺体発見後の警察の事情聴取に対してこの恋人は「7年間の交際で近く結婚する予定もあった」と述べて交際が順調だったことを明らかにしている。恋人との交際にHIVが関係しているとしてもその検査結果は知らされていないのだ。ただ一部報道で死の数日前に恋人ともう一人のヨディ氏に好意を寄せる女性と3人で会い、どちらの女性を選ぶことを迫られたとの情報があり、女性関係に問題があったという指摘もある。ただこの時は長年交際してきた恋人をヨディ氏は選んだというので、それが自殺の動機になるかどうかは疑問である。

血痕の飛散状況に関しても当初は他の場所で殺害して運ばれ、人目につかない高速道路脇に放置したとか高速道路から投げ捨てたとの見方もあり、血痕の飛散状況が自殺の決め手の一つになるとの見方は説得力に欠ける。

致命傷となったナイフによる首と胸の深い刺し傷に関しても、利き腕と刺した首の傷、胸の傷との位置関係、刺し口の形状からナイフを順手で握ったのか逆手で握ったのか、刃の向きは内向きだったのか外向きだったのか。ナイフ握り部分から指紋は検出されたのかなどという初歩的な鑑識結果すら警察は言及していない。またインドネシアのマスコミもそこまで突っ込んだ質疑を警察にぶつけた様子もない。

また7月17日に「テンポ誌」が報じた「殺人を示唆する新たな証拠」として遺体の周辺から発見回収された毛髪に関して「被害者か捜査関係者かあるいは第3者の容疑者の毛髪である可能性もあり鑑定中」との件に関しても一切言及がない。

被害者、捜査関係者の毛髪はサンプル採取で鑑定が可能であり、排除することができる。そのどちらでもない場合は第3者の可能性が残り、捜査にとっては重要な手掛かりとなるはずなのだが。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「ウクライナに耳を傾けて」、会談決裂

ワールド

インド10─12月GDP、前年比+6.2%に加速 

ビジネス

中国2月製造業PMIは50.1、3カ月ぶり高水準 

ワールド

韓国輸出、2月は1%増に回復も予想下回る トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 9
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中