韓国・文在寅政権が苦悩する財閥改革の現在地
例えば、金東兗(キム・ドンヨン)前副総理がサムスン工場を訪問するという話が出た際には、政権の一部から批判が出た。また、文自身がインドのサムスン工場を訪問した際にも同様に一部から批判が出た。政権としても、経済が厳しいときには財閥に頼らざるを得ないところがあるので、ある程度の良好な関係を保たなければならないなど、苦慮しているのが実態だ。
ただ財閥改革の強硬派も、そうも言ってられない現実を理解し始めたのか、その手の批判を手控えている様子だ。実際、今年に入ってから閣僚級の財閥企業訪問が増えている。
――財閥自身は改革に対してどのような意識を持っていると考えるか?
今の政権が財閥や大企業批判を繰り広げた「ろうそく集会」で誕生した経緯があることから、財閥も政権の改革に従わざるを得ないという理解があるだろう。改革に対応しないと世論のみならず政権から何をされるか分からないという危機感もあるはずだ。実際、経営幹部が拘束されるような事態も起こっているのだから。
ただ、どの程度まで対応すればいいのかというあたりで腹の探り合いがある。それは政権自身が「自主改革」を促していることが示唆するように、お互いが腹の探り合をしている印象だ。
――財閥にとって譲れない「マジノ線」はどこにあると考えるか?
創業者一族に対する経営権の継承がその大きな1つだ。そこを完全に放棄するというのは余程のことがないと無理だろう。
――一族による経営権継承にこだわる理由は?財閥の中には世界的に認知される企業もあるなか、日本の財閥企業の様に生え抜きの社員を社長や経営者として継がせるという意識はないのか。
これは一言では言い表せない難しい問題だ。1つの大きな要因としては、信用の問題があるのではないかと考えている。一族(創業家)以外に経営を任せることに対する信用の欠如だ。その意識は韓国の場合、非常に強い。
確かに、最近では財閥から切り離された企業をファンドが買収して外部の経営者を招くという変化も見られているが、全体としてみると経営権を一族以外の手に渡すことへの抵抗感がある。内部の子飼いの経営者であっても、完全な信用を置けないというのが実態だ。経済活動の中で、(同族を担保にせず真の意味での)信用ベースで取引や事業を行う慣習が定着しきっていないということが背景にあるのではないか。