韓国・文在寅政権が苦悩する財閥改革の現在地
――自主改革以外の対策は?
政権は2年目に入ると本格的に改革を推進してきた。例えば公正取引法(日本の独禁法に相当)の改正と、商法の一部改正を発表した。つまり、自主改革だけではなく法的にも改革していくという意思を示した。
ただ、いずれにおいても財閥を徹底的に追い込むような「キラーコンテンツ」があったわけではなく、従来の規制を強化して財閥が好き勝手に動ける余地を狭めた、と言う程度と言うのが実態だ。
政権にとっては不幸なことに、少数与党のため国会に法案を提出しても野党から徹底した反対を受けている。結局、法案の提出から1年以上経過したが、いまだに通過していない。そのため大統領府と政府与党は、国会を通過させる必要のない施行令などで対応しようと協議を進めている状況だ。
加えて、これまで公取委員長として財閥改革の音頭を取ってきた金尚祚氏が、大統領府政策室長に異動した。基本路線は変わらないが、また引き続き財閥政策は金尚祚氏が主導するとみられるが、公取委の推進力を維持できるかは未知数である。全体としてみると、なかなか思うようには進められていない状況だと思う。
――目ぼしい成果を上げるとすれば?
財閥を含めた大企業による中小企業に対する経済力乱用の取り締まりの強化があげられる。
フランチャイズ制の企業でよくみられることだが、「親会社」がフランチャイズの店舗の利益の大部分を吸い取り店舗の売り上げは薄利という、支配的な経営手法がこれまで問題視されていた。新政権の公取委は、そうした慣行の是正を進め、時には違反企業を摘発することもあった。これらを含めて、財閥改革において一定程度の成果があったとは言える。
その他に大きな変化として指摘できるのは、国民年金公団(NPS)が財閥企業の大株主であることの権利を行使して財閥改革を迫ったことだ。NPSの最高意思決定機関は保健福祉省の管轄下にあり、かつ政治的な独立性が低いため政府の意思を通しやすい。
実際、大韓航空の趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長が株主総会で取締役の再任を否決される事態が起きた。こうした、議決権を行使した形での関与がインパクトは大きく、文政権が今後もこの手を使う可能性はある。
――文政権発足後から話題が南北融和に集まったこともあり、財閥に対する関心が薄れた印象もある。財閥改革に対する世論の反応をどう見ているか?
国民も、財閥を崩壊させればいいとは思ってはいない。財閥のオーナー(の横柄な振舞いなど)に対する批判はあっても、それは財閥の存在自体への批判とは違う。財閥に対して、国民のなかでは愛憎半ばする思いがある。不満がある一方、韓国経済が成長するための大きな推進役であったことを疑う国民は少ない。
ただ、政権やその支持層の中には頑な財閥批判者がいる。彼らのなかには、文政権の財閥改革は財閥と融和的ではないか、との視線を注いでいた時期もあった。