韓国・文在寅政権が苦悩する財閥改革の現在地
結論から言うと、文政権および金尚祚氏は財閥改革における全ての分野においてドラスティックなことはやっていないし、やれていない。
金尚祚氏は少数株主運動などを通じて財閥の株主総会で経営陣を追求することなどをやってきた。そこでの経験から、現実的にはドラスティックな財閥改革を行うことが非常に困難であるということが良くわかっている。そのため、なるべく徐々に改革を進めていこうという意識は最初からあった。
――具体的にはどのような改革から始めた?
最初に実施しようとしていたのは、財閥に対して自主的な改革を促すこと。政権発足後の17年6月、金尚祚氏が財閥トップらとの懇談会で促したことの1つが、複雑な持ち株構造を是正してシンプルな持株会社をつくること。(不透明なグループ経営と経済力集中の温床となっていた)従来の形態を廃止して、持ち株会社の傘下に関連企業がぶら下がる単純な構造にすることを目指したものだ。金尚祚氏はまず、その実現に向けて自主的な改革を期待すると、財閥の経営陣らに促した。その進捗を見ていくとクギを刺しつつ、だ。
――朴槿恵前政権が財閥との癒着でつまづき崩壊したことを考えると、「自主改革」には生ぬるさを感じるが。
財閥改革の難しさを知っている金尚祚氏だからこその対応だったのではないかと考える。そもそも財閥を締め上げるような規定を作ること自体が困難で、成立したとしてもすぐに抜け道が作られてしまう。法律だけで締め上げることの限界を彼はよく分かっている。そのため、(強烈な民意に後押しされた)政権の勢いを利用してというか、法的な対応よりも無言の圧力で改革を促すことを狙ったのだと思う。
――自主改革の成果はあった?
難しさを露呈している。例えば、現代自動車グループは政権が推奨するところの「持ち株会社」を新設する計画を発表した。おそらく事前に政府のお墨付きもある程度得ていたのではないかと思う。
ところが実際にその計画を発表したところ、外部の株主から猛反発を受けた。新しい持ち株会社を創設するために企業間の一部合併や分離を実施した場合、株主価値が毀損すると考えた投資家、とりわけ外資の投資家が強く反発した。その結果、持ち株会社の設立計画自体がとん挫した。
こうしたこともあり、財閥改革において企業、政府、そして外部株主の全者が喜べる方法は見出せていない。