アングル:テスラがサウジで販売開始、充電施設不足など本格進出に課題も

米電気自動車(EV)大手テスラが10日、サウジアラビアでの販売を開始する。写真はリヤドにあるテスラの販売店。8日撮影(2025年 ロイター/Mohammed Benmansour)
[リヤド/ドバイ 9日 ロイター] - 米電気自動車(EV)大手テスラが10日、サウジアラビアでの販売を開始する。ただ充電施設の不足など、テスラが本格進出を果たす上での課題は多い。
テレメトリーのアナリスト、サム・アブエリサミド氏によると、サウジで昨年販売されたEVは合計でわずか2000台と、テスラの1日平均販売台数さえ下回っている。
一方サウジ政府はEV分野に巨額の資金を投じて育成を図る計画だが、テスラはこれまでその流れに加わることができなかった。2018年にイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)によるツイートを巡り、サウジ政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)と確執が起きたことが原因だ。
当時マスク氏がPIFとの会談後、テスラ非公開化の「資金を確保した」とつぶやいたのをきっかけに、その後この問題に関して株主が起こした訴訟の中で、マスク氏とPIFトップの間で緊迫したメッセージのやり取りがあったことが判明した。
しかし現在は状況が一変し、マスク氏にはサウジ市場に参入する機会が与えられた。マスク氏は昨年11月の米大統領選でトランプ氏の勝利に貢献し、政権発足とともに重要な地位を占めている。そのトランプ氏は最初の外遊先としてサウジを訪れる意向で、こうした経緯とともにマスク氏とサウジの関係も改善した。
米シンクタンク「アラブ湾岸諸国研究所」のロバート・モギェルニツキ上席常任研究員は「多くの企業関係者は、予想されるトランプ氏の中東湾岸訪問に関する自社の立場をどうするか考えている。テスラは先んじて現地市場へしっかりと足場を築き、トランプ氏が実際に訪問する際のチャンスを生かしたいのではないか」と述べた。
<航続距離巡る不安>
マスク氏はサウジ市場に力を入れる可能性がある。
テスラは1─3月販売台数が前年同期比13%減と過去3年近くで最低の業績に沈み、マスク氏の政治活動に対する反発に起因する各地の不買運動、競争激化、人気の「モデルY」刷新の遅れといったさまざまな逆風に見舞われているからだ。
もっともマスク氏がPIFとの関係を修復した後でも、サウジでやるべきことはなお多い。いち早く昨年5月にショールームを開業したライバルの中国BYD(比亜迪)と比べても出遅れ感が漂う。
幸いサウジではテスラの不買運動が起こりそうにはないが、充電施設の少なさという問題に加えて、最高気温が摂氏50度に達する日もあるサウジの暑さはEV電池の消耗を早めてしまう。
昨年時点でサウジの充電施設は101カ所と、人口が3分の1に過ぎないアラブ首長国連邦(UAE)の261カ所に及ばない。しかもサウジの充電施設は大半が主要都市に集中しており、例えば首都リヤドとイスラム教の聖地メッカを結ぶ全長900キロの高速道路上には1つも存在しない。つまり運転手は砂漠の高速道路を長時間走行しなければならないという困難を味わう。
サウジのBYDゼネラルマネジャー、カルロス・モンテネグロ氏は「充電施設は、唯一でなくとも主要な懸念要素の1つになると思う」と述べ、サウジの運転手の走行距離は毎年、他の市場よりもずっと長いと付け加えた。
モンテネグロ氏によると、BYDがサウジで販売している車の約7割は、純粋のEVではなくハイブリッド車だ。
リヤドにあるBYDのショールームを訪れていたある男性も、EV購入に際して主な心配事は航続距離だと話す。「私は平均で(毎年)5万キロ余り走る。EVがそれに対応できるか不安だ」という。
それでも政府は2030年までに走行する車の30%をEVにする壮大な計画を掲げ、同期間に充電施設を現在のおよそ50倍の5000カ所に拡充することを目指している。
モーニングスターの株式ストラテジスト、セス・ゴールドスタイン氏は「(サウジの)EV普及率は今後も中国など先頭を行く国よりは低いままにとどまる公算が大きい。しかし数年にわたって伸びていくだろう。より急速な充電ができる施設が建設され、長距離を走行する手頃な価格のEVが投入されるとともに、需要は拡大する」と述べた。