実写版『空母いぶき』をおススメできないこれだけの理由

2019年6月6日(木)20時40分
古谷経衡(文筆家)

これは佐藤浩市氏が悪いのではない。「総理がストレスに弱く、それが故にお腹を下してしまう体質で、だから漢方の入った水筒を持ち歩いている」という設定を映画的に説明したいのであれば、最低でも水筒のアップショット、水筒に口をつけるシーン、その水筒の中に漢方が入っているというシュチュエーション、また如何に総理がストレスに対して感受性が高いか、を制作側が意図して演出しなければならないが、そんなものはない。

ただただ、散漫な演出と説明不足がだらだらと続く。だから、「安倍総理を揶揄している」などという、ある種の方面からの袋叩きは、実のところ映画版の中では微塵も登場しない。これなら、まだしも意図的に総理を茶化す演出を入れた方が良いと思う。しかし、そうしたセンスもないようだ。ここまで来ると映画製作に関する基礎的素養が疑われるレベルである。

7】映画『宣戦布告』(麻生幾原作)との比較

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筆者所有の『宣戦布告』単行本、DVD類。筆者撮影

ここまで少し筆が辛辣に過ぎたかもしれない。しかしこの辛辣さも、筆者がかわぐちかいじ先生の大ファンとして、先生を尊敬してやまない一念であることを再度書き加えておく。

最後に、「日本が敵国から武力攻撃事態を受けて、内閣をはじめ各部署が奔走する」というテーマで『空母いぶき』に最も類似したものは近年では麻生幾原作の映画『宣戦布告』(2002年劇場公開、石侍露堂監督)があろう。

「日本が"敵"から武力攻撃事態を受けて、内閣をはじめ各部署が奔走する」というテーマを扱った中で最も秀逸な実写作品は庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』(2016年)であるに違いないと筆者は断じるが、ゴジラは「国家」ではないので、ここから除外する。

実は映画『宣戦布告』も、原作の麻生幾氏の原作小説バージョンからいくつも改変がある。

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