アングル:米政権の貿易戦争、世界の企業が警戒 値上げや業績予想引き下げ

トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争がコストを押し上げ、サプライチェーン(供給網)を揺るがし、世界経済への懸念をかき立てる中で、さまざまな業界の企業が価格を引き上げ、業績予想を下方修正し、不確実性の高まりを警告している。写真は、ブルックリンの食料品店。2月26日、ニューヨークで撮影(2025年 ロイター/Siddharth Cavale)
Richa Naidu Hyunjoo Jin Jessica DiNapoli
[ロンドン/ソウル/ニューヨーク 24日 ロイター] - トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争がコストを押し上げ、サプライチェーン(供給網)を揺るがし、世界経済への懸念をかき立てる中で、さまざまな業界の企業が価格を引き上げ、業績予想を下方修正し、不確実性の高まりを警告している。
24日に決算を発表した米日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のアンドレ・シュルテン最高財務責任者(CFO)は、トランプ氏が導入を表明した関税強化によるコスト上昇の影響をカバーするために商品を値上げする計画を発表。シュルテン氏は会見で「コスト構造と損益の中で関税の影響を軽減するために、あらゆる手段を講じなければならない」とした一方、「短期的な調達の変更や原材料の変更はしたくない」として、状況が確実になった後に対応を検討すると表明した。
米食品・飲料大手のペプシコと、医療機器メーカーのサーモフィッシャーサイエンティフィックは貿易摩擦を理由にして年間利益見通しを下方修正した。アメリカン航空は2025年通期決算の業績見通しを撤回した。
ペプシコのジェイミー・コールフィールド氏は決算発表後の電話会見で「3カ月前と比べて消費者の動きに良い印象を持っていない」と語った。
ネスレのローラン・フレイシェ最高経営責任者(CEO)とユニリーバ、米チポトレ・メキシカン・グリルはいずれも米国の消費マインドが弱まっていると指摘した。
ロイターの分析によると、過去2週間に世界の30社弱が業績予想を撤回または下方修正した。その中には建築用品企業のマスコ、米航空会社のデルタとサウスウエストも含まれる。
イーロン・マスク氏が率いる米電気自動車(EV)メーカー、テスラは貿易政策による打撃や、トランプ氏の側近として政府職員の解雇を進めてきたマスク氏への反感による不買運動の打撃を受けており、3カ月以内に業績予想を見直すと表明した。
株価の大幅下落など市場に激震が走った後、トランプ氏は貿易相手国に対する「相互関税」の上乗せ部分を7月8日まで90日間停止した。一方で米国への輸入品に対する10%の基本関税と、アルミニウム、鉄鋼、自動車に対する関税は引き続き適用される。
情報筋は23日にロイターに対し、米国は中国との貿易交渉が終わるまで中国からの輸入品に対する関税の引き下げを検討すると明らかにした。一方で中国は提案を拒絶し、トランプ氏が導入を表明した全ての関税を交渉前に撤回するように要求している。
トランプ氏が一部の関税適用を撤回する可能性を示唆したため、米株式市場はここ数日間安定している。トランプ政権は日本や韓国、それら以外の国々との貿易交渉を進める構えだ。S&P500種株価指数は24日に上昇したものの、今年に入ってからは7.5%下落している。
<投資のシフトも>
韓国の現代自動車は関税に対応するためのタスクフォース(作業部会)を立ち上げ、クロスオーバー車「ツーソン」の一部の生産をメキシコから米国へ移したと発表した。
現代自動車は「貿易戦争の激化や、その他のさまざまな予測不可能なマクロ経済要因のため、厳しい事業見通しが続くと予想している」として年間業績目標を据え置く中で、一部の米国向け自動車の生産を韓国から他地域へ移すかどうかも検討していると表明した。
現代自動車は傘下の起亜と合わせた販売台数が自動車メーカー世界第3位となっており、世界販売台数の約3分の1を米国市場が占めている。また、米国での自動車販売台数の約3分の2を輸入が占めている。
大手製薬会社数社は、米国での医療費の削減や食品医薬品局(FDA)の職員の大量解雇を懸念しながらも、既に多くの医薬品メーカーが進出している米国に追加投資すると表明している。
米ブリストル・マイヤーズ・スクイブのデビッド・エルキンスCFOは「当社にとっての懸念は、技術革新に影響を与えるようなこと」または「患者の医薬品へのアクセスを制限するようなことだ」と言及した。
中国の電子商取引(EC)大手、京東集団(JDドット・コム)は今月11日に発表した今後1年で輸出企業から少なくとも2000億元(273億5000万ドル)相当の商品を購入する販売支援策について、既に3000社近くから問い合わせを受けていると明らかにした。