最新記事

映画

実写版『空母いぶき』をおススメできないこれだけの理由

2019年6月6日(木)20時40分
古谷経衡(文筆家)

筆者所有の『空母いぶき』パンフレット。筆者撮影

<疲労と絶望、そして怒り──。筆者が5月24日から公開されている映画『空母いぶき』(以下、映画版)の2時間強を見終わった後に感じた率直な印象である>

映画版は、2019年5月25日号における『ビッグコミック』誌上における、佐藤浩市氏のインタビューに関する事象が各方面で物議(「佐藤浩市は三流役者」論争に芸能人が次々と参戦、SNS時代ならではの現象、2019年5月15日付、週刊女性プライム、YAHOOニュース配信)をかもすなど、公開前から何かと話題の作品であった。

この「物議」の部分については後述するとして、筆者は原作のかわぐちかいじ先生の大ファンであり、仮に事前の佐藤浩市氏のインタビューがどんな内容であろうと、また各方面にどんなハレーションが沸き立っていようが、尊敬するかわぐちかいじ先生原作の実写映画版となれば、何をおいても見に行くつもりであった。

そして筆者が劇場にて映画版を鑑賞した感想は、冒頭の通り、疲労と絶望を通り越した、映画製作者の「映画」というものに対する全般的な情熱の低さと、あまりにも低い完成度に対する怒りに他ならない。

1】あまりにも酷すぎる原作改変

漫画版『空母いぶき』(以下、原作)を読んでいる読者ならだれでも知っていることだが、原作では20XX年、中華人民共和国(当初、上陸者の国籍ははっきりしない)の工作員が沖縄県の尖閣諸島に上陸。続いて事態はエスカレートしていき中国人民解放軍が先島諸島を限定占領したところから、日中の武力衝突が起こる、という内容である。

まず断っておくが、これから筆者が書く内容は、映画版のネタバレにあたるものでは無い。なぜなら以下2】~3】の内容は、ほぼすべて冒頭の3~5分で説明されており、また映画の予告や宣伝文句等にも書かれている事前通知の内容なので、映画版を未鑑賞の読者に対しても十分な配慮をしていると自負があるからだ。

しかしながら、本稿4】~6】にかけては、本稿の構成上、やむを得ず映画版の一部分に触れざるを得ないため、映画版の事前情報を一切知りたくないという方は、本稿を読むのは遠慮したほうが良いかもしれない。

さて、ざっと事前の注意書きを述べてから、本稿を始める。

では、原作と映画版では何がどう改変されているのか。余りにも酷い改変に、以下卒倒しないようご注意いただきたい。

2】カレドルフって何ですか?

映画版では、そもそも『空母いぶき』(日本)の敵国として、カレドルフ(ドイツ語風?注="ドルフ"とはドイツ語で村落を意味するが、劇中での説明はない)なる「建国3年」の島嶼国家が設定されており、このカレドルフという国が急進的な民族主義を掲げた結果、なぜか漢字名の「東亜連邦」を名乗り、日本が領有する波留間(はるま)群島・初島に武装した兵士が上陸、同島を占領する、というところから始まる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権

ワールド

米空港で最大20%減便も、続く政府閉鎖に運輸長官が

ワールド

アングル:マムダニ氏、ニューヨーク市民の心をつかん

ワールド

北朝鮮が「さらなる攻撃的行動」警告、米韓安保協議受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中