コフィ・アナン負の遺産──国連はなぜルワンダ虐殺を止められなかったのか?
実はアナン氏の訪問の2か月前に、クリントン大統領夫妻がルワンダを訪問したのだが、その時はアナン氏と異なり、温かく歓迎された。セバレンジ議長曰く、その背景と理由は下記の通りである。クリントン氏がアメリカ合衆国の大統領として、ルワンダへの軍の派遣に関わっていたら、他国も後に続いた可能性があるため、クリントンの方が責められるべきであった。しかし、クリントン大統領への批判はただアメリカを遠ざけるだけで、何百万ドルもの支援を危うくさせた。
その一方で、ガーナ出身のアナン氏は大国の人間と異なり、ルワンダを支援するにあたって権限がなく、できることは、他国の支援をお願いすることしかなかった。ルワンダ政府として、ジェノサイドへの国際社会の介入を放棄した責任を彼に担がせ、罪を負わせたかったのだった。
さらに追加すると、ルワンダ政府(RPF)はジェノサイドに関わっていたにもかかわらず、その事実を隠し、その責任を転嫁するために国連を都合よく使用(悪用)したとも言える。
故人を惜しみつつ、将来、ジェノサイドのような残虐行為が繰り返されないためにも、改めてルワンダのジェノサイドにおける国連の責任の検証を提言したい。
<参考文献>
コフィ・アナン & ネイダー・ムザヴィザドゥ (著)、 白戸純 (訳)『介入のとき――コフィ・アナン回顧録』(上・下) 2016年
ジョセフ セバレンジ&ラウラ・アン ムラネ (著)、米川正子 (訳)『ルワンダ・ジェノサイド生存者の証言―憎しみから赦しと和解へ』2015年
Dallaire, Romeo. Shake Hands With The Devil: The Failure of Humanity in Rwanda, 2005.
Des Forges, Alison. Leave None to Tell the Story: Genocide in Rwanda, Human Rights Watch, 1999
Guichaoua, André (著)、Wesster, Don E. (訳)、From War to Genocide: Criminal Politics in Rwanda 1990-1994 , 2017
Onana, Charles. Les secrets de la justice internationale : Enquêtes truquées sur le génocide rwandais, 2005
Rwandan Patriotic Front, "Statement by the Political Bureau of the Rwandan Patriotic Front on the Proposed Deployment of a U.N. Intervention Force in Rwanda," April 30, 1994.
Rudasingwa, Theogene. Healing A Nation: A Testimony: Waging And Winning A Peaceful Revolution To Unite And Heal A Broken Rwanda, 2013
Ruzibiza, Abdul J. Rwanda l'histoire secrete, 2005.
United Nations Security Council, Report of the Secretary-General on the United Nations Assistance Mission to Rwanda, S/1995/457, 4 June 1995
[執筆者]
米川正子
立教大学特定課題研究員、コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表。
国連ボランティアで活動後、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)では、ルワンダ、ケニア、コンゴ民主共和国、スーダン、コンゴ共和国、ジュネーブ本部などで勤務。コンゴ民主共和国のゴマ事務所長を歴任。専門分野は紛争と平和、人道支援、難民。著書に『世界最悪の紛争「コンゴ」~平和以外に何でもある国』(創成社、2010 年)など。
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