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中国共産党

辣椒(ラージャオ)さんとの出会い――亡命漫画家『嘘つき中国共産党』

2017年1月26日(木)17時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 新潮社の編集担当者に電話しようとして手にしていた携帯を置き、あわててVOAの記者からのメールに返事した。

「会いたい!すぐに会いたい!」と。

辣椒(ラージャオ)さんと会った!

 二人とも気がせいていた。一刻も早く会いたいと互いに思っていたのだ。

 そんなわけで、翌日に会うことになった。なんと彼は筆者のすぐ近くに住んでいた。まるで天の悪戯(いたずら)のようだ。

 素朴で、いかにも誠実そうな笑顔。風刺漫画は辛らつだが、穏やかな人柄である。

 二人とも相手に聞きたいことや自分の言いたいことなどが溢れ出て、努力して自分の言いたいことを抑えないと相手の言うことを落ち着いて聞くことができない。そんな嬉しい努力をしながら、二人は互いの理念の一致点に改めて感動した。

 彼の活動の動機も筆者と同じく、中国における言論弾圧に抵抗するためだ。

 辣椒さんの実名は王立銘。1973年、中国の新疆ウィグル自治区で生まれた。文化大革命中、親がそこに下放されていたからである。2009年から「変態辣椒」というペンネームで政治風刺漫画をネット公開し始めた。「変態」というのは、中国語で「変態と言っていいほど凄い」というニュアンスで、たとえば「激辛」的に使う。

 2012年に国内安全保衛部門という公安機関に初めて捕まった。

 中国人は「国内安全保衛」を「国保」(Guo-Bao、グォー・バオ)と略すが、これは「国宝」(Guo-Bao)と同じ発音なので、「国の宝」である「パンダ(熊猫)」を隠語として「国保」を指すことが多い。そのため『嘘つき中国共産党』には醜悪な顔をしたパンダが頻繁に出てくる。

『マンガで読む 嘘つき中国共産党』を描いたわけ

 風刺の仕方が面白く、中国の現状を実によく肌で分かっていることを表しており、説得力があるだけでなく、思わず吹き出してしまう場面もある。

 本のp.10の3コマ目には「私の夢は中国近代史の真相をストーリー漫画で描くことです」とあり、そばに並べてある本のタイトルの中に「毛沢東真相」とあるのを見て、筆者の心は躍っていた。

 辣椒さんは、わざわざ亡命のために日本にきたというのではなく、2014年8月に観光ビザで来日して、帰国時期が来たときに「帰国したら必ず逮捕される」という状況になってしまい、そのまま日本に留まるしかなくなったようだ。だから夏服しか持ってきていなかったので、当初は非常に困ったとのこと。

 でも言論の自由、描写の自由がある日本が大好きだという。

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