「トランプとプーチンとポピュリストの枢軸」が来年、EUを殺す
トランプが大統領選を制したことは、欧州のポピュリストたちにとって「もはやあり得ないことはない」という証になった。世論調査や市場や専門家の予測を物ともせず、トランプはアメリカに蔓延していた不満につけ込み、既成政党(共和党)をハイジャックし、「反エスタブリッシュメント」の側として勝利を手にした。
欧州のポピュリストにとって、トランプの勝利は自分たちへの刺激や自信になっただけでなく、最高権力と手を組む可能性も意味する。大統領の座を射止めてから数日後、トランプがニューヨークにあるトランプタワーの金ピカの自宅に招き入れたのは、ブレグジットを牽引した反EU政党、イギリス独立党のナイジェル・ファラージ党首代行だった。欧州の政治家で、大統領選後のトランプと会談したのはファラージが初めて。ダウニング街10番地(イギリス政府)には意も介さず、トランプはファラージを駐米イギリス大使に推したいと勝手に指名した。
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トランプと欧州各国のポピュリストとの連携は、単なる政治的な連帯を超越するかもしれない。トランプ政権で首席戦略官と上級顧問に就任する白人至上主義者スティーブ・バノンは、かねてからフランスのルペンに取り入る様子が報道されていた。さらに彼は来年実施されるフランスとドイツの選挙に先がけて、保守系ウェブサイト「ブレイトバート・ニュース」のフランス版とドイツ版を立ち上げようと画策している。すでにイギリス版はブレグジットの牽引に一役買った。
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NATOも解体か
ヨーロッパにおけるトランプの外交政策によってリベラルな政党は守勢に追い込まれ、ポピュリストの思う壺になるだろう。トランプはロシアと取引を成立させたい願望が見え透いており、米政府によるヨーロッパの安全保障政策を格下げ、もしくは同盟の破棄にすら前向きな姿勢を見せていることから、NATOが骨抜きにされる可能性がある。
そうなればヨーロッパ連帯の基礎が根本的に傷つけられ、欧州各国がNATOに替わる安全保障協定を奪い合ったり新しい政策を強要されたりすれば、欧州の構成国としての各国の不和が一層悪化する。
トランプのアメリカと、プーチンのロシア、ヨーロッパのポピュリスト政党で構成される新たな枢軸は、リベラルなヨーロッパにとって毒のような組み合わせだ。リベラルな秩序を守るために立ち上がるなら、今しかない。