「トランプとプーチンとポピュリストの枢軸」が来年、EUを殺す
極右に言わせると、移民が侵入できないよう国境を閉鎖し、社会保守的な価値観に回帰するなどして国家を創り直せば既存の問題は解決できる。一方の極左は、グローバル化された資本主義システムをぶち壊すべきだと主張する。アプローチは異なるが、EUとリベラルな思想の解消を目指す点は両者に共通する。
欧州のエリートが集う政治の中心部で、イギリスのボリス・ジョンソンに代表される日和見主義者たちは、ポピュリストの波がもたらす好機を敏感に察知した。彼らは反EUの根拠を並べ立てて「post-truth(世論形成で、客観的事実より感情や個人的信念が影響力を持つ状況)」を応用し、しまいには政治の世界で足場を築くまでに至った。
欧州の東隣に位置するロシアは、欧州のポピュリストがもたらす地政学的な恩恵を心得ている。ここ数年来、ロシアは右派左派を問わず、それらの政党を味方に取り込んできた。EUを弱体化させ分断させるという戦略的な利益を上げたいプーチンにとって、彼らの存在は好都合であり、イデオロギーの通じる仲間と見なしている。ポピュリスト政党は、ロシアへの経済制裁の解除やEUによるウクライナ支援の中止を訴えるなど、親ロシアの立場をとる傾向がある。
あらゆる分裂はロシアを利する
イギリスのEU離脱(ブレグジット)を決めた国民投票や、EUとウクライナの政治・経済面での関係強化に向けて調印した「連合協定」を否決したオランダの国民投票をはじめ、既成政治の崩壊は、EUが手がけてきた壮大なプロジェクトをぶち壊すのにとりわけ威力を発揮している。EUの組織や統合が弱まれば、欧州各国の間で対立を引き起こしたいロシアにとって好都合なうえ、究極的にはヨーロッパ全体におけるロシアの影響力拡大につながる。ポーランドやフィンランドで反ロシアを訴えるポピュリスト政党でさえ、EU域内で政治的な分裂を目指してくれるのであればロシアは利益を得られる。
ロシアは数々のポピュリスト政党をありとあらゆる手法で支援する。ロシアの国営メディア「RT」や「スプートニク」で宣伝機会を提供し、欧州各地の「国民戦線」にはローンによる財政支援も惜しまない。フランスとドイツの国政選挙を来年に控え、アメリカでトランプの大躍進を成功させた要領で、ロシアが独仏両国にもサイバー攻撃を仕掛けて選挙に介入するかどうか、予断を許さない。