最新記事

世界秩序

「トランプとプーチンとポピュリストの枢軸」が来年、EUを殺す

2016年12月6日(火)19時00分
フレドリック・ウェスロー(欧州外交評議会、上級政策研究員)

 極右に言わせると、移民が侵入できないよう国境を閉鎖し、社会保守的な価値観に回帰するなどして国家を創り直せば既存の問題は解決できる。一方の極左は、グローバル化された資本主義システムをぶち壊すべきだと主張する。アプローチは異なるが、EUとリベラルな思想の解消を目指す点は両者に共通する。

 欧州のエリートが集う政治の中心部で、イギリスのボリス・ジョンソンに代表される日和見主義者たちは、ポピュリストの波がもたらす好機を敏感に察知した。彼らは反EUの根拠を並べ立てて「post-truth(世論形成で、客観的事実より感情や個人的信念が影響力を持つ状況)」を応用し、しまいには政治の世界で足場を築くまでに至った。

 欧州の東隣に位置するロシアは、欧州のポピュリストがもたらす地政学的な恩恵を心得ている。ここ数年来、ロシアは右派左派を問わず、それらの政党を味方に取り込んできた。EUを弱体化させ分断させるという戦略的な利益を上げたいプーチンにとって、彼らの存在は好都合であり、イデオロギーの通じる仲間と見なしている。ポピュリスト政党は、ロシアへの経済制裁の解除やEUによるウクライナ支援の中止を訴えるなど、親ロシアの立場をとる傾向がある。

あらゆる分裂はロシアを利する

 イギリスのEU離脱(ブレグジット)を決めた国民投票や、EUとウクライナの政治・経済面での関係強化に向けて調印した「連合協定」を否決したオランダの国民投票をはじめ、既成政治の崩壊は、EUが手がけてきた壮大なプロジェクトをぶち壊すのにとりわけ威力を発揮している。EUの組織や統合が弱まれば、欧州各国の間で対立を引き起こしたいロシアにとって好都合なうえ、究極的にはヨーロッパ全体におけるロシアの影響力拡大につながる。ポーランドやフィンランドで反ロシアを訴えるポピュリスト政党でさえ、EU域内で政治的な分裂を目指してくれるのであればロシアは利益を得られる。

 ロシアは数々のポピュリスト政党をありとあらゆる手法で支援する。ロシアの国営メディア「RT」や「スプートニク」で宣伝機会を提供し、欧州各地の「国民戦線」にはローンによる財政支援も惜しまない。フランスとドイツの国政選挙を来年に控え、アメリカでトランプの大躍進を成功させた要領で、ロシアが独仏両国にもサイバー攻撃を仕掛けて選挙に介入するかどうか、予断を許さない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中