「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」

DOCUMENTARY FILMMAKERS ARE RUTHLESS

2025年3月3日(月)14時31分
森 達也(映画監督、作家)

元弁護団の西広陽子

元弁護団の西広陽子らは2月20日に会見し、映画で映像などを無断使用しないよう求めた RODRIGO REYES MARIN/AFLO

だからこそ僕たちドキュメンタリストは、自分のエゴ(主観や思い)を優先する自分たちの行いを鬼畜の所業だ、などと自嘲する。胸など張れない。張れるわけがない。その自覚と覚悟がないままにドキュメンタリーを作れば、大きな摩擦が起きて当然だ。

ドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』の最大の問題点はここにある。自らをジャーナリストと称し、映像や音声の無断使用を「公益性」のためと主張する伊藤詩織監督だけではなく、作品を擁護する人たちも批判する人たちも、ドキュメンタリーとジャーナリズムを混同している。


ジャーナリズムは作品ではない。その問題提起と社会への周知に大きな意味がある。でもドキュメンタリーは作品だ。

公正中立なピカソの絵をあなたは見たいと思うだろうか。公益性の実現を目的としたベートーベンの交響曲を聴きたいと思うだろうか。客観的な開高健のノンフィクションを読みたいと思うだろうか。

もちろん作品がそうした価値を持つことはある。でもそれは後付けだ。公益性や公正中立など、ドキュメンタリストは指標にすべきではない。

ちなみに本作において争点の1つとなっている捜査員の電話の音声の使用だが、公務中の公務員のものというレトリックで正当化できなくはない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、ダウ312ドル高 スマホなど関

ワールド

米財務長官、中国との貿易協定に期待 関税は「冗談で

ワールド

米政権、今秋に次期FRB議長候補者の面接を開始=財

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで3年ぶり安値近辺 対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中