「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
DOCUMENTARY FILMMAKERS ARE RUTHLESS
それまでの僕は、「ドキュメンタリーは客観的であるべきだ」「中立公正を常に意識しろ」など先輩たちからの助言をそのまま受け取っていた。それがドキュメンタリーのあるべき姿と思い込み、自己紹介するときには「報道系とドキュメンタリー系です」などと当たり前のように答えていた。
加害側に立つ覚悟と負い目
でもそれは違うと気が付いた。報道(ジャーナリズム)とドキュメンタリーは全く違う。ドキュメンタリーは自己表現なのだ。自分の感覚や思い、つまり主観を、現実の断片を利用して再構成する。
もちろん、断片ではあっても現実は現実だ。テーマも含めてジャーナリスティックな方向と重なることは少なくない。だからテレビ時代の僕のように、勘違いする人は今も後を絶たない。
でもそれは、たまたま重なっただけなのだ。同一視してはならない。ドキュメンタリーとジャーナリズムは似て非なるもの。向きが違うのだ。
ちなみに、フジテレビだけではなく在京のテレビ局全てから放送を断られたオウムのドキュメンタリーは、その後に『A』というタイトルで僕にとって初めての映画になった。
そして冒頭に引用した『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』の元本である『「A」撮影日誌──オウム施設で過ごした13カ月』(現代書館)は、僕にとって初めての書籍となる。つまりこのときの体験は、その後も現在も僕自身の原点だ。
ジャーナリストは公益性や社会正義の実現、権力監視や弱者救済を使命として、情報提供者は絶対に守るなど多くの規範やルールを自らに課す。二重三重の裏取りやファクトチェックも欠かせない。中立性や客観性もできる限り意識しなくてはならない。
その理由の1つは、取材や公開の過程で(特に映像メディアの場合は)強い加害性を帯びるからだ。
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