最新記事

米メディア

ペンタゴン・ペーパーズ 映画で描かれない「ブラッドレー起用」秘話

2018年3月31日(土)12時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ベンと私は、続く数カ月の間に何回か会って話し合った。彼は、愛する現在の職を去るからには、ただ単にアルが退職するのを待つために、ポストで二年から三年も安閑と過ごすつもりはないとはっきり言った。しかし、一年ならば、ポストに移って待つことにやぶさかでないことも分かった。私はこうした考え方にはあまり乗り気でなかった。心のどこかで、この男は仕事もまだ得ていないというのに、なんだってこう厚かましいんだろうと思う一方、やはりこれがわが社にとって必要であり、私も実は望んでいることなのかもしれない、とも思うのだった。

ベンはせきたてたが、私は引き伸ばし続け、一九六五年の夏になって初めて、ベンをニューズウィークからポストの編集局次長として引き抜く案を、ラスとアルに伝えた。彼らは最初は否定的だった。ラス・ウィギンスは、ベンが来るならば他の者と同じように記者として来て、実力によって昇進すべきだと主張した。アル・フレンドリーは、二、三年のうちには全米新聞編集者協会の会長に就任する見込みがあり、彼としては非常にこのポストに就きたかったので、編集局長の職を急いで退きたくはなかった。ベンは事実、一年以内に昇進したいという希望をアルに話したが、これに対してアルの答えは、「君はいったい何をそんなに急いでいるんだね?」というものだった。しかし結局ベンは、見解の相違を承知の上で、ポストにやって来た。

編集局長更迭の苦渋

一九六五年七月七日、全国および国際ニュース担当の編集局次長としてベンがポストに参加することが、ラスとアルとによって発表された。ベンは当時まだ若く、四三歳だったが、ニューズウィークのワシントン支局長として、すでに四年の経験があった。ニューズウィークの新しい支局長としては、メル・エルフィンが選ばれ、その後二〇年間にわたって堅実かつ効果的にその職を務めた。ポストでは、古手で敏腕のベン・ギルバートが、ローカルニュースと管理担当の編集局次長に任命された。

ベンの就任は九月一日ということになっていたが、彼は夏休みを取らず、八月二日には早くも出社した。ニューズウィークを土曜日に退職し、翌週の月曜日にはポストに着任したのである。私は七月二〇日に次のような手紙を送った。「アルからの嬉しい知らせでは、あなたは他の人たちが一カ月かかって身につけることを、ただの三〇分で学んでしまうそうですね」。確かに、ベンは着任するやいなや駆け出していた。

それ以後ずっと、ベンはカリスマ的な指導者であり続けた。彼は極めつけの美男子であり、愉快な性格、洗練された都会人の典型で、政治的センスも十分だった。すべての要素が彼を際立たせる役目を果たしていた。さらに重要だったのは、彼が常に猛烈に働いたことである。現場の仕事を覚えるという決心のもと、深夜まで働き、土曜日も休まなかった。彼がすぐに気づいたのは、ラスが論説面にばかり精力を注ぎ、アルは実際のところ仕事のエネルギーを失ってしまっているということだった。こうした状況のなかで、ギルバートが「全部のネジとネジ回しを制御して」紙面を統括しているのが実情だった。ベンは、アルがたとえば各部局の機能や組合の活動など新聞の基本というものを理解していないと感じた。彼の認識不足が、ポストに重大な損害を与えていると思った。最初からベンは、良い編集者であるためには、すべてがどのようにして成り立っているのか知っていることが重要と考えていたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中