ペンタゴン・ペーパーズ 映画で描かれない「ブラッドレー起用」秘話
私が最も望んでいたのは、タイミングの問題が後にずれ込むことだった。アルを追い出すことになるような問題を考えたくはなかったので、事がなんとなく穏やかに過ぎ去ってくれないかと望んでいた。しかしベンに関するかぎり、事はそう穏やかには進まなかった。その秋、アルとジーンがトルコでの夏休みを終えて帰ってくると、私はポストの将来について再びアルと話を始めた。アルは、私が示唆したように、ウォルター・リップマンと昼食を兼ねて話をすることにしたという。ウォルターの方も私を電話口に呼んで「どこまで話したらいいと思う?」と尋ねてきた。私は、彼がその場で言えると思う限りのことを話してほしいと、次のように言った。「その場の感じで、行ける所まで行ってちょうだい」。私が意図していたのは、ウォルターも同じことを考えていたと思うのだが、アルに対して新聞の欠点について述べ、新聞を向上させるのに何ができるかを話すことだった。その他には、含むところはまったくなかった。
昼食の後で電話が鳴りウォルターが出て、「まあ、話が非常にうまく進んだので、全部片付けてしまったよ」。その表現を高校以来聞いたことがなかったので、私は心配になって尋ねた。
「その、『全部片付けた』ってどういう意味?」
「ああ」、彼は答えた。「経営管理の仕事は人間をすり減らすから、辞めて、原稿書きの仕事に戻ることを考えなければならない時が来るもんだ、と言ったのさ」
私は啞然とした。ウォルターがそこまで話すとは思ってもいなかったのだ。ベンが参加してからまだ三カ月しかたっていない。そして、アルをそんなに早く無理に移動させるつもりはなかった。あの強引なベンでさえ、丸一年は当然かかると考えているし、私はもっと長くかかることを予想していたのに。
私には知らせずに、ベンはいろいろと異なった方向からも圧力をかけていたに違いなかった。そして、もちろんアル自身とも、今後の状況について話し合っていたのだろう。彼の性急さは、ロンドンのサンデー・タイムズの特派員ヘンリー・ブランドンが本社の編集者デニス・ハミルトンにあてて書いた手紙からも見て取れる。日付は一〇月一二日である。「ベン・B〔ブラッドレー〕の主張によれば、アルが未だに現職に留まっており、彼に聖なる牛を殺させるような状況には耐えられないので、ベン・Bは二カ月以内に上層部の決断を強く求めるつもりのようだ」
ベンの圧力はあったのかもしれないが、私としては古くからの親友に対して、そんなに唐突に面と向かって現職から退いてくれと頼むことはできなかった。しかし、ウォルターが実際のところ「全部片付けた」話をしてくれ、私自身もその頃には関係者全員にとってそれが最上の策ではないかと考えるようになっていたので、人事の変更に手をつけることにした。私にとってはかなりの勇気を要することだった。
ウォルターと電話で話し終えて受話器を置こうとした時、アルが青白く硬直した表情で私のオフィスに入ってきた。アルは言った。「これは君の望んだことなのかい?」。もう引き返すことは不可能だった。非情な決断はすでに下されていたので、私は淡々として言った。「そう、残念だけど、そういうことなのよ」。公平に見て、確かに正義は彼の側にあった。彼は言った。「君の口から直接聞きたかったよ」。その時、彼に事情を説明したかどうかについてはまったく記憶がない。しかし、私たち双方が感じた苦痛は未だに心の中に残っている。