最新記事

米メディア

ペンタゴン・ペーパーズ 映画で描かれない「ブラッドレー起用」秘話

2018年3月31日(土)12時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

トム・ハンクス演じるベン・ブラッドレーはいかにしてワシントン・ポスト紙の編集主幹になったか ©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

<スピルバーグ監督作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、ワシントン・ポスト社主キャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドレーを描く物語。「報道の自由」を守る戦いに身を投じていく2人の「始まり」を、グラハムの自伝から抜粋する(第3回)>

ベトナム戦争の「暗部」にまつわる最高機密文書をワシントン・ポストが公表、米政府の圧力と戦っていく――。

実話を映画化したスティーブン・スピルバーグ監督作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、『キャサリン・グラハム わが人生』(小野善邦訳、CCCメディアハウス)を主な土台としている。ワシントン・ポスト社の社主キャサリン・グラハムの97年の自伝だ。

ここでは、自伝を再構成した新刊『ペンタゴン・ペーパーズ――「キャサリン・グラハム わが人生」より』(小野善邦訳、CCCメディアハウス)の第2章から、キャサリン(映画ではメリル・ストリープが好演)が社主となった直後に日本やベトナムに外遊し、ベン・ブラッドレー(トム・ハンクス)を編集主幹に起用するところまでを3回に分けて抜粋する。

ワシントン・ポスト傘下にあったニューズウィークの、野心あふれるワシントン支局長ブラッドレーをポストの編集局長に――。いわば、映画の前日譚とも言える箇所だ。今回が第3回。

※第1回:天皇と謁見した女性経営者グラハム(ペンタゴン・ペーパーズ前日譚)
※第2回:ワシントン・ポストの女性社主が小型ヘリに乗り、戦場を視察した

◇ ◇ ◇

編集局の刷新を考える

ポストで最初に働き始めた時に、私が当然のように思っていたのは、何事も以前とまったく同じように継続するだろうということだった。しかし、私の監督下になって持ちあがってきたことの一つは、驚いたことに、ポストの編集の質に関する問題であった。ポストが完全には満足できる状態にないという事態を、私は気づかなかった。編集局長のアル・フレンドリーと、論説面をみている主筆のラス・ウィギンスに全面的な信頼を置いていたし、すべてがうまく運んでいると信じていた。事実、フィルの死後およそ一年たった時点で、私はアルに次のような私的な手紙を書いている。「このようなことは書かなくても、あなたはお分かりのことと思いますが、ともかく気が済まないので書かせていただきます。この一年間、あなたは本当に素晴らしい活躍をしてくれました、そして本当に立派でした」

紙面が期待されるほどには良くなく、向上の余地が多分にあるという考え方を最初に耳に入れてくれた一人に、スコッティー・レストンがいる。彼はグレン・ウェルビーの家に向かう途中、このように言ったのだ。「君は、相続した新聞よりずっと優れたものを次の世代に残したくはないか?」

この質問は、びっくりするには当たらないように聞こえるかもしれないが、当時の私には驚きだった。私は、過去において私たちが成し遂げていたような進歩を、現在は達成していないということ、あるいは私たちが行っていることは、一九六〇年代の現在としては不十分であるということをまったく考えていなかった。

論説委員室や編集局内部で何が起こっているのかということを、どうして気になり始めたのか、もはや思い出すことは難しい。だが、注意信号のようなものがいくつもあったのは事実で、これらに気づいた私は、当然新聞が進むべき方向のことを考え始めた。将来の問題について個人的に相談を持ちかけたのは、ウォルター・リップマンとスコッティーだった。

本当のところ、私はスコッティーを必要と感じていた。彼は個人的にも非常に親しい友人であり、新聞を発展させるために力を惜しまず助けてくれた。一九六四年の夏、彼に何回も会ってポスト紙に来てくれる可能性がないかどうかを打診した。話し合ったことの一つに、ずっと以前からの彼の懸念、つまりフィルが発行人としての立場を超えて口出しすることが多かったという問題があった。これについては、私の場合は状況が違うということで合意した。最後には、フリッツの助言もあり、ウォルターやラス・ウィギンスとの相談を経て、スコッティーに、ニューヨーク・タイムズのコラムを続けながら、わが社の編集顧問になるという、曖昧なポストを提案した。確かに、これは妥当な案とは思われなかったのだが、ラスとアルに恩義を感じていた私は、彼らの考え方に反対したくなかったのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国際開発局巡る混乱継続、本部が3日全日閉鎖 マス

ビジネス

米国株式市場・午前=大幅安、トランプ関税懸念で 自

ビジネス

金価格、過去最高値 トランプ関税懸念で安全資産に資

ワールド

トランプ氏、カナダ首相と3日午後に再会談 関税巡り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我との違い、危険なケースの見分け方とは?
  • 4
    メーガン妃からキャサリン妃への「同情発言」が話題…
  • 5
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 6
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    「103万円の壁」見直しではなく「壁なし税制」を...…
  • 10
    トランプ「関税戦争」を受け、大量の「金塊」がロン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 10
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中