最新記事

ブレインフィットネス

コーヒー、アルコール、喫煙、肥満......脳によくないのはどれ?

2015年11月12日(木)16時45分

 アルコールが脳に与える長期的な影響という点で納得できる説がひとつある。それは、心臓血管病になる率をアルコールが低くするとするものだ。HDLコレステロールを上昇させ、血栓を形成する要因を減らす作用がアルコールにあるからだ。そのため、ほどほどの飲酒であれば、脳の血管システムを保護するだけでなく、脳卒中を防ぐ効果があり、その結果、よりよい認知力を保ち、認知症になるリスクを減らすことへとつながっていく。

 補足になるが、晩年にアルコールをほどほどの量たしなむ人は身体全体が概して健康なので、なぜ、アルコールが認知症への進展リスクを低くするかをうまく説明できない場合がある。

問題を起こすふたつの要因――糖尿病と喫煙

 ラリー・マクリーリーが指摘しているが、認知症の初期兆候のひとつに、脳が効果的にグルコースを使えなくなることがある。一部の研究者が、その事実に気づいている。糖尿病という病気の核心はグルコースをうまく使えなくなることだが、脳内でそれが起こっていることから、アルツハイマー病を3型糖尿病と呼ぶ脳神経学者もいる。

 最近行なわれた国立衛生研究所による広範囲にわたるメタ分析が、糖尿病によって、認知力が低下するリスクや、アルツハイマー病になるリスクを高くすることを立証している。糖尿病になることが、認知的な機能不全につながる大きなリスク要因になるのだ。これは、体内の微小血管がダメージを受ける細小血管障害が、血糖値をコントロールできない糖尿病の人たちの特徴だからかもしれない〔そのため、グルコースや酸素がニューロンに運搬されなくなる〕。ほかの可能性として考えられるのが高血糖症だ。高血糖症は脳内の血流を変化させ、同じように認知力を障害する。

 糖尿病が認知力に影響を与えるという情報が大切なのは、糖尿病患者になんらかの方法で認知力への影響を相殺しようとするモチベーションを生じさせるからだ。それは、たとえば、よりよいライフスタイルを選択する、あるいは、認知力を向上させたり、認知力の低下や認知症になるリスクを低減させたりする介入を考えさせるきっかけになるだろう。

 喫煙はどうだろうか? 今現在、喫煙している人はアルツハイマー病になる高いリスクを抱えているといってよいだろう。そして、タバコを一本も吸わない人と比べると、認知力低下が激しくなることがわかっている。

 今この時点からの禁煙が助けになるのは、一度も喫煙したことがない人と比べると認知力は年々低下するが、禁煙せずに喫煙を続ける人に比べれば、アルツハイマー病になるリスクが高くならないからだ。この結果は、たぶんタバコの葉に起因するものであり、ニコチンが脳に及ぼす影響とは話が違ってくる。決定的な研究結果に欠けるものの、ニコチンが認知機能(注意力、処理速度、記憶力)を強化することを示すいくつかの調査があるからだ。

肥満と認知力

 体重と認知力との関連性は本質的なところであきらかになっていない。これを探った研究は数が少なく、結論に至っていないからだ。肥満とアルツハイマー病になるリスクとの関連性についても相反する結果が報告されている。あるものはリスクが増加するとし、あるものはリスクが減少するとしているのだ。たぶん、体重が認知力に与える影響は小さいのだろう。この相反する結果を生む別の要因として、被験者が太り過ぎになったときの年齢も問題になるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中